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いわゆる裏的な
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Posted by - 2024.05.16,Thu
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Posted by 瑞肴 - 2010.03.04,Thu


空気読まずに流れをぶった切り、昔々のSS
例の男の少しだけ過去のお話。
これも特に気に入ってるものの一つです。
今回は加筆も修正もナッシン。
















一本の瓶を手に、歩いている。周囲は薄暗い。
「おーつかい、おつかーい♪ かぼちゃーの馬車~はネズミが引ーく♪」
透明の硝子瓶には琥珀色。ラベルは無し。
勝手に樽の中から入れたから、詳しい銘柄は覚えていない。ただ良い香りだから選んだ。
「ネズミーが引ーくのーは♪ かぼちゃーの馬車~~♪」
「エンドレスじゃない!!」
良い音がして胸板が叩かれた。
「いて」
「ES、久しぶり!」
顔なじみの女性。とはいえ、最後に顔を見たのは確か―――
「おう。調子どーよ」
タロット占いをさせた時だ。
止めとけ、と軽く笑うESと、興味を抑えきれずに占った女。
途端、恐慌状態に陥った女を落ち着かせたのもESだった。漆黒の映像は遮断され、目の前に銀色。

だから、止めとけって言ったのに。

見えたのは黒だけだった。
未来であるべき場所にも、現在であるべき場所にも黒しかない。
何故と考える前に思考は凍りついた。在り得ない、それは死者の持つ黒だったから。
腕を、硬い上腕に絡ませながら見上げる。
「上々。ねえ、何処行くの?」
「かぼちゃ貰いに」
「なぁに、それ」
「お前は何処行くんだ?」
ESは中心部から町外れへ、女は町外れから中心地へ。
「私はESに会いに」
「あー、やっぱり?」
沿道は畑。かぼちゃが転がっている。
ESは笑った。残念そうに。
「もうちょっと、”力”弱けりゃなあ。平和に死ねたろーに」
長い、ふわふわと指に絡む髪を掴む。
掌から炎が発生する。
たんぱく質の燃える嫌な匂いが一瞬空気に満ちた。髪の毛を燃やし尽くされると同時に女の体は泥と化し、地に崩れ、地と混ざる。土塊で模った人形に、女本人の髪の毛を植え込んで動かした土人形だと、気づいたのは誤魔化しようも無い土臭さからだ。
とはいえそれを嗅ぎ取ったのは鋭過ぎるESの嗅覚だからこそ。
「誰だぁ? 俺のお気に入り殺って再利用した大馬鹿は」
占術師たる職業に就いていた女が、早々簡単に髪の毛を手放すわけはない。髪一本あれば持ち主に呪い(まじない)を掛けることが出来る、それが、あれほどの量の髪を体から手放したとなれば答えは一つ。本体が髪を手放しても支障が無い状態にある、ということ。つまりは、死の中。
周囲の畑、夜露を含んだ土が蠢いている。
オレンジ色のかぼちゃが、浮かんだ。
『Trick or Treat!!』
妙に甲高いのは、人間の声ではないからか。
ぽかりぽかりと、水面に浮かびくる気泡のように、宙に浮かぶ。
かぼちゃには穴が開けられていた。
目と鼻と口に当たる部分、威嚇するよう鋭角のラインで、穴が。
『Trick or Treat!!』
ESの周囲を回り始める。空洞のかぼちゃの中では鬼火が灯っていた。
命を狙われるのはよくあることだ。だからESは驚きもしない。
ESはいつでもどこでも気紛れに好き勝手に動くので、それによって引っ掻き回される相手からよく恨みを買う。そういった敵があまりに多いので、一々恨みの数と種類など気にしていられないのである。
次第にかぼちゃの数は多くなっていく。
悪意の気配が多くなる。
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』


『Trick or Treat!!』
まるで耳鳴りのように繰り返される単語に包まれながら、ESは無造作に立つ。
『Trick or Treat!!』
『Trick or Treat!!』
『Trick or …』
まったく反応を返さないESに、声は次第に収まっていった。警戒している。
静けさを取り戻した空間。
月の光を明るく感じるほど、周囲には重く夜の帳が降りてきた。
薄く開いたESの唇から、赤い舌が覗いた。




「 Trick  or  Treaaaaat? 」



問うESの手にあった瓶は消え、替わりに、赤い魔剣が現れる。
「Treaaaaat!!!!!」
艶めかしい声と共に、赤く美しい妖女が浮かび上がる。答えたのは彼女だ。
出現した途端、剣霊はかぼちゃお化けの合間を縫うよう飛び回る。彼女の体に触れた途端、かぼちゃは鈍い音をたてて地に転がっていく。
魂を喰らう剣霊なのだと、知る者は意外に少ない。
実体験して知った瞬間には、その者は死んでいるのだから当然といえば当然か。
ごろごろと転がるかぼちゃの中心で、ESは顔を別方向へ向けた。
「Trick or Treat?」
かぼちゃの葉が揺れる。風に、ではない。
笑みを含んだ口調で、ESは繰り返した。
「Trick or Treat?」
ゆっくりと、優しく、女性にそうするように。
油断していれば聞き落とすほどの小さな声が、かぼちゃの葉の間から湧き上がった。
「…… …Trick…」
月光の下、ESの唇に浮かんだ笑みが引き金になり、身を低くして潜んでいた首謀者は転移の魔法を唱え始める。
「なら、お仕置きだ」
頭が既に、大きな手に鷲掴みされている。恐怖に顔を引きつらせる相手を力任せに立ち上がらせたESは、空いた片手でそっと、『彼』の手を握った。
「キレーな髪抜いた指は、いらね」
濁った音。手は、手とは認識できない形に歪んでいる。
「ぁああああああ!!!」
「夜中にウルサイ口もいらね。んー、口じゃなくて舌だなこの場合」
細められる金目は笑みの形で、『彼』は顔の全てのパーツを引き攣らせた。




琥珀に満ちた硝子瓶を振りながらESが歩く。
「あーあー、遅くなった。早くしねぇとハロウィン終わるじゃねえか」
知り合いの農家に、美味い酒と引き換えに、大きなかぼちゃを貰いに行く予定だったのだ。まだ白んでこない空を見上げ、ESはてくてくと歩く。自作の歌を唄いながら。
「おーつかい、おつかーい♪ かぼちゃーの馬車~はネズミが引ーく♪ ~っと」

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