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いわゆる裏的な
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Posted by - 2024.05.16,Thu
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Posted by 瑞肴 - 2010.03.08,Mon
俳優パロ、バレンタインネタ
幸雄さんとその他のやつの続き。これでおしまい。

先日アップして一旦下げたもの、
書き足して再アップ。















連れて行った花屋は、アカギも充分に満足するものだったようだ。
一頻り、店にあった花々を賞賛してから、熱心に赤い薔薇を数種類のうちどれにするかを選んでいる。
まるで子供のように、真剣な眼差しをきらきらと輝かせるアカギに苦笑しながら、平山も花々へと視線を向けた。

薔薇だけでも数種類。
赤、ピンク、黄色。

彼女に贈るなら、白しかない。
高潔な、穢れのない、触れるのを憚るほどの凛とした佇まい。
「……花、か」
アカギに触発されたものの、自分が彼女へ花を贈るというのは傲慢な気がした。
華道の家元である彼女は誰よりも”それ”に精通している。修行も半ばで彼女の下を去った自分が、なにを、おこがましい。
どれだけ知識を深めても、修練しても、彼女のレベルには絶対に届かないのだと悟ったあの日。
耐え切れずに家を飛び出した。
知っていた、わかっていた。
天才と秀才は、違う。
彼女は前者。自分は、どう頑張ったって後者にしかなれない。
だから
彼女がたったひとりで護り築き上げてきたものを、自分の手では、どうとも、出来ない。否むしろ、それを自分が手に入れてしまったとしても、彼女の作り上げたものを汚してしまうと、思った。
「………もう俺のことなんか…」
忘れているかもしれない。
白い薔薇を見下ろしていた平山の背に、身に染み付いた緊張感が走り抜けた。
「?!」
慌てて、振り返る。
「師はっ…!!!」
何故こんなときに。
普段、彼女は滅多に一人歩きなどしない。
だというのに今日は、以前のままに真っ直ぐに背を伸ばし、これまた珍しい洋装で、一直線にこの花屋を目指しているようであった。
どうしようどうしようどうしよう。
店から逃げるにも、彼女との距離が近すぎる。
平山は必死で、観葉植物のコーナーへと飛び込み身を隠した。彼女は鉢植えにはあまり興味がないからだ。
ヒールの音をさせて入店してきた彼女は、すぐさまに店の主人を呼びつけた。
会話内容は聞こえないが、何か注文でもしていたのだろうか。
直ぐ傍にアカギが居るのが冷や汗ものだ。あれでいて察しの良い青年なので、平山が意図的に隠れていることをこっそり示せば、わざわざ暴きたてはしないだろうけれど。というか、完全に薔薇の選別に集中しているようなので、平山のことを忘れている状態かもしれない。
暫く彼女と話し込んでいた店主が不意に奥へと引っ込んで、やはり何かを注文していたのだろうかと推察する平山だった。
待たされて手持ち無沙汰になった彼女の視線が、近くで考え込んでいるアカギで止められた。
「(珍しい…。師範、人間に全然興味無いのに)」
やはり彼女も女性だということなのだろうか。アカギは黙っていれば、ヒトの目を引く美丈夫だ。興味をひかれても不思議ではない。(テレビはニュースしか見ない彼女はアカギが俳優だということすらきっと知らないだろうから、芸能人が傍に居ることに意識を割いているのではないだろう)。
不躾にアカギを見ていた彼女は、ふと、右手に下げていた簡素な紙袋へと視線を落とす。
「(こっちも珍しいな。洋菓子屋の紙袋なんて、…師範が自分で食べ物買ってるのは初めて見た)」
彼女の家には使用人が複数居る。普段、買い物はすべて彼らの手で行われていた。
服飾品こそ彼女自身が品を見定めるものの、自宅まで業者が赴いてくるのが常。彼女自身が出掛けて何かを購入するということは、殆ど無い。
「(あの紙袋は…確かラング・ド・シャで売り出してる中流メーカーの… …師範が食べるようなメーカーじゃねーよな…)」
彼女は、駄菓子は口にしない。
だからバレンタインにはいつも、彼女の口には入らない、入れられないような余り物のチョコレート菓子を自分は与えられて―――
「(…そうだ、あの時も、その前も…)」
封のされたままだったチョコレート菓子。
そもそも、マカダミアナッツチョコだとか、チョコウエハースだとか、そんなものが彼女の邸に置かれているわけがなかった。
誰も彼女にそんな駄菓子を贈らないし、使用人たちが自分たち用に取って置いたものなら、毎年々々、封をあけていない状態の(しかも限定してチョコレート素材の)菓子がそうそう都合よくバレンタインデーに存在するものだろうか。
「(………師範が、用意してくれてたんだ)」
声を上げそうになって、平山は慌てて自分の口を自分の両手で塞いで覆う。
「(どうして気付かなかったっ…! ヒントは幾つもあったのに…!!)」
聞きたい。
聞いてしまいたい。声に出したい。
もしかして、いま持っている紙袋の中身は、居場所も伝えていない俺の為に用意しようとしてくれたものなんですか。
ずっと行方をくらませて御免なさい。
どうにかして、貴女の前でも胸を張っていられる自分自身を確立したくて、でもそう簡単にはいかなくて、けれど諦めてしまうわけにもいかなくて。
「~~~~~っ」
喉の奥まで嗚咽がせり上がってくる。
去年も一昨年も、彼女にこんなことを、もしかして、させてしまったのだろうか。それは思い上がりなのだろうか。
わからない。ききたい。けれど、きけない。
平山が奥歯を噛み締めていると、店主が彼女のもとへと戻ってきて会話が再開される。店主が持ってきた注文書に何事か書き込んだ彼女は、簡潔に礼を述べるとまたヒールの音をさせて店から直ぐに出て行ってしまった。
「……師範」
膝から力が抜けて、その場にへたり込む。
ごめんなさいと、音にすることさえ許されない気がして、ただ己が両膝へと額を擦りつけた。


















窓際の小さなテーブルの上に、買ってきた菓子箱を置く主の姿を、後ろから白服が見つめていた。
「…依和緒様…」
主は振り返らない、黙って、菓子箱を見下ろしている。
箱の横に、白い花が飾られていた。
「依和緒様…、もうお止め下さい、そのような…っ」



白い花は、菊の花だったりして
菓子箱の前には、小さな額縁に入れられた平山の写真が収められた、状態。
ちなみに額縁の色、漆黒。



「い、依和緒様ぁあ…」
怒ってる。めっちゃ怒ってる。
平山が何も告げずにここを去って丸3年。主の怒りは未だに解けず、この日になると菓子を買ってきては黒い額縁に平山の写真を用意させて、手ずから白い菊を花瓶に生けて飾るのだ。
平山が見たら、泣くんじゃないかと思う。いや、確実に泣く、俺なら泣くと白服は思った。
そのうちテーブルに線香の一本でも立てられるんじゃないだろうかと、余計な心配をする白服を他所に、主は鼻息を一つ飛ばすと通常の日常業務へと舞い戻る。



はらりと、菊の花が一枚、落ちた。

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