いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.02.24,Wed
雪の精ネタを拝見してから、
書きたいなーと思っていた雪ネタ。
ご存知の方もいらっしゃるやも
元ネタは、ほししんいちさんのとあるお話です。
故にといいますか、一般的な視点からすれば幸福な話ではありません。
でもこのお話の主人公はしげるですから、
それでいうなら幸福な話かもしれません。
一応あかわし。
書きたいなーと思っていた雪ネタ。
ご存知の方もいらっしゃるやも
元ネタは、ほししんいちさんのとあるお話です。
故にといいますか、一般的な視点からすれば幸福な話ではありません。
でもこのお話の主人公はしげるですから、
それでいうなら幸福な話かもしれません。
一応あかわし。
真白の雪山、その山頂までの半ばの道に、その小屋はあった。
中にいた先客は、雪のように白い髪に白い顔で、登山者たる男を迎え入れた。迎え入れたといっても、彼はこの小屋の住人ではないというのは、簡素な小屋の設備から見ても明らかだった。
「君は、山頂を目指しているんじゃないのか?」
青年は首を横に振る。
ただ此処で寝泊りしているだけだという。
古い囲炉裏があるとはいえ、雪も深く積もったいまの時期、あまり長居するのはどうだろうかと苦言を呈するも、青年は興味もなさそうに笑っている。
薄っぺらな笑顔だ。軽率という意味ではなく、感情が篭もっていない。
「…どうするかは君の自由だが、忠告はしたぞ」
ほんの僅かな時間とはいえ、自分が関わった人間が無防備に凍死するのは夢見の良いものではない。男は顰め面のまま、山頂へと向かっていった。
青年が此処に留まっているのには理由がある。
男が訪れたのは昼間だったので、男は何も気付けなかった。青年の持つ理由は夜に現われる。
雪が降る音まで聞こえてきそうな夜。
深い闇の黒と雪の白だけが外の世界を埋め尽くす頃、それは扉を開ける。青年は、熱の篭もった薄笑みでそれを迎え入れた。
ただしその顔は青白く、指先は紫に変色するほどに冷え切っている。
囲炉裏の火は落とされ、僅かな熱である灯火さえも無く、窓を全開にした室内では当然のことだったろう。
「待っていた」
人間としての限界点まで冷えた指が来訪者を捕らえる。
手首を引っ張られ、青年の腕の中へと収まったのは銀と白の老人。老人は、唇を裂いたような笑みを浮かべている。頬の皺が、笑みによってより深く刻まれた。
青年はより強く、老人を抱き締める。
白い着物一枚だけの老人の体は氷の冷たさ。しかし抱き締める方の青年も、腕を動かすのがやっとというほどに冷え切っていた。
最初は、こうではなかった。
初めの晩。
老人を窓の外に視認していたのに、扉を開けた途端、小屋の中の暖気にあてられて一瞬のうちに老人は消え去った。
次の晩。
囲炉裏の火を落として待ち受けたものの、腕を取った瞬間、青年の体温によってその姿は掻き消えた。
次の次の晩。
熱という熱が老人を消してしまうのだと、乏しい知識の中から、あれは雪の化身か何かなのだと推測した青年は、火をすべて落とし、窓を開け、冷え切った体でやっと老人を抱き締めた。
しかし、唇が触れ咥内が触れ合った瞬間にやはり、白い体は消え去っていく。
終始無言の老人は、青年が足掻けば足掻くほど、楽しげな笑みを浮かべた。
抱き締めることが叶ったそのときは、目を見開いてから、笑い声まで聞こえてきそうなほどに、身を震わせていた。
もっとその表情が見たい。
もっとその体に触れたい。
青年は
暗闇が辺りを包む直前まで、自分の体を白い雪の中に埋め込んだ。
「…アンタ、名前は? 呼びたい」
紫の唇が、銀色の髪に触れる。
目を細めてそれを受けた老人は、ゆっくりと青年と目線を絡めた。
「俺は、赤木しげる」
促されたと感じた青年が名乗る。息まで冷たいのを感じ取ってから、老人が口を開く。
青年の指はもう動かない。腕の関節をかろうじて曲げるのが精一杯で、薄い耳は既に凍って崩れ落ち、肺の中までもが冷え切っていた。
「 ・・・・・・ 」
ゆるゆると、動かされた唇は名を名乗り、青年は凍りついた顔面で溶けそうなほどの幸福な笑みを浮かべる。
「…わしずいわお。……わしず、いわお」
ぎしりと。
より強く抱き締めようとした腕が、そのままの形で固まった。
老人にとっては痛いほどの力だったろうに、さも可笑しげに笑っている。
眼球の表面までも乾き凍っていく青年が最期に見たものは、老人の深い赤い、鮮やかな色合いの両目であったという。
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