いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.10.30,Sat
数日だとこんなものかー。これくらいの文字数と流れで書くように戻していきたいなあ。
BASARA3、大谷さんがただ病んでるお話です。
流石、私の書くカップリング話はカップリングっぽく見えナイ。
BASARA3、大谷さんがただ病んでるお話です。
流石、私の書くカップリング話はカップリングっぽく見えナイ。
人っ子ひとり通らないとは、この事を云うのだろう。
夜な夜な辻斬りの被害が出た夜の街は静かである。戸口も窓も閉ざされている。まるで疫病でも恐れて家屋に引き篭もっているかのようだ。
理不尽な逃れられない凶悪な死という点では確かに似通っているかもしれない。口元を隠す布の下、大谷は唇を歪めた。
今宵は、痩せ細った月までもが雲に隠れがちである。この状況を皮肉といわずしてどう述べようか。
大阪の街に噂が広まったのは暫く前のこと。
『大谷吉継が悪瘡の病回復の願掛けに千人斬りを行っている』
惨めよなミジメ。
歪んだ唇はそう嘯いた。
どのような姿であっても美しい月とは違い、徐々に痩せて肉が落ちつつある己は嫌われる。他人の警戒と嫌悪を、受け流しながらも時には助長するような態度を取る大谷にも問題はあるのかもしれない。しかしそんな己を諌めるつもりは、あまり、ない。
そうして流れる不敬な噂を、あり得ないと、言い切って激怒した友の顔がまざまざと思い出された。そうと口に出してくれたのは三成と、主たる秀吉のみであった。そうであろ、そうであろ。大谷は謳うように囁いた。いっそ楽しげに。そうしてひたひたと薄闇をいく。徐々に深い、真の闇に飲み込まれつつある、その静寂は心地好い。大谷の顔を覆い隠す白い頭巾と、提灯の灯だけが浮かび上がった。百鬼夜行ならぬ一鬼夜行か。
供も連れずに、街を行く、その理由とは。
大谷の腰帯には刀が差されていた。
数年前に病を発症してから、確実に大谷の肉体は武士としての機能を削られていっている。しかしまだ刀は振れるし、弓も引ける。だからこそ大谷が疑われているわけで。
千人斬りの噂を、大谷本人はは特別否定も肯定もしない。ただ、金にも見える不可思議な色合いをした目を細めて薄く笑う。誰に噂されようが、通らぬ理屈でなじられようがその態度は変わらず、それがまた大谷辻斬り犯人説を助長していった。
大谷にとって、それはどうでも良いことなのだ。
考えねばならないことに、成さねばならぬ仕事は山ほど積み上がっている。
自分がどう反論し、潔白を示してみせようとしても、どうせあの者共は、秀吉の覚えも明るく、義を貫く故に曲がることを知らぬ厄介者の石田三成の盾とも刀ともなれる大谷を、その嫉妬心からなじる、忌諱する。変わらない何も変わらない。
主に与えられた仕事と、友以外に時間を無為に使うことを、大谷は良しとはしなかった。
「やれ、億劫な」
薄っぺらな言葉は夜風に舞う。
大谷は真実というモノを滅多に吐かない。言の葉には力が宿る。漏らしたホンネに縛られるなど御免被りたいので、薄ら笑いを浮べながら嘘を吐く。
ひたりひたり。
歩みながら、頭は仕事の算段で満ちていた。船をどこから揃えるか、あそこの商人へ連絡を取って、人員への褒美の分配はどの時期に行うか、その為に準備すべき物品はどこで取りまとめるか、手配して、三成に必要な日数を割り出して貰って。
目が回るほどの忙しさ。気力でそれらをこなせるのだから、己の体はまだ動くのだろう。未だ。いまのところ。いまのうちは。
業深きこの体。徐々に動きが鈍っていくのが自分自身わかる。
千人、万人斬れば治るというのか、治るというなら、それで大谷吉継として生きていけるというのなら。
夜の、静かに柔らかい空気の中を泳ぐように進んでいた大谷が足を止めた。
羽根を休めた蝶が、ほんの僅かに引き攣った笑いを零し、腰に刺された刀の柄に手を掛ける。
近付いてくる、ちかづいてくる、もう少し、もう少ぉし。
白刃の軌跡が闇を裂いた。
柄を握っている手に力を込める。骨が痺れるような感覚。だが刀を取り落とすほどではない。
今度は斜め下から抉るように。
予測通りの踏み込みならば、動きの鈍りつつある己といえども受け流せる。
薄く固い金属が噛み合う音がして、一瞬の間に鍔迫り合いに。
大谷はそれにかろうじての均衡を保ちながら、件の辻斬りを繰り返したその者の姿を仰ぎ見た。
「――あァ、哀れ、アワレ」
一刀の下に惨死した死体を見れば、余程に腕に秀でた者の、余程の獲物での犯行だというところまでは明らかで。
これほど繰り返された事件の、犯人の姿すらまったく捉えられていないのは。
「そうよなァ、ぬしならば、閃光のように斬り捨てられるぬしならば誰にも目撃されまいよ」
黒い雲が引き、夜空に月が現れた。
照らし出された美しい銀の髪が眩しくて、大谷はうっそりと目を細める。
「……ぎょうぶ、ぎょうぶ、ぎょうぶ、わたしが、ぎょうぶを」
嗚呼。
眩しさに細められていた目が、歪んだ歓喜と苦痛に歪む。
「ぎょうぶを…ぉおおっ!!」
甲高い金属音と共に弾き飛ばされる。
踵に力を込め、逆に、無防備なまでに真っ直ぐに、刀を構えなおしつつある三成へと突進する。
「三成」
「…っ!!」
振り下ろされかけた刃は、懐に飛び込んできた大谷の首の寸前でびたりと止まった。
三成と視線を絡めようとしたけれど、ひどく曖昧な光を浮べる胡乱な双眸は焦点が定まっておらず、叶わない。
大谷の金の眼が、銀月を見据えた。
三成は呪縛に掛かったよう刀を取り落とし、ただ少し下に位置した大谷の双眸を見つめ続ける。刀は止めたものの、それは唯の反射であるようで、今の三成は大谷を大谷として認識出来てもいない様子。
「……みつなり」
やれ、と息を吐いてから、ゆっくりと白い頬へと指を添える。
徐々に失われつつある身体機能のかわりに、大谷は不可思議な力を手に入れた。
巷では神通力と呼ばれる其れが、夢遊状態の三成の意識深くへ語りかける。
「みつなり、我の愛しい凶つ月。ぬしにかような事を教え込んだのは誰ぞ」
かわいい三成、かわいそうな三成。戯れに言いやられたのであろう、千人斬りで業病を治すことが出来る、と。だが生来真面目な三成だ、幾らそれで友の病が治るといわれたとて、実行に移せる筈も無い。おそらく困惑し押し黙ったであろう三成に、揶揄が続いたのだろう。御大切にしている友よりも義が大切とは治部殿らしい、などと、おそらくそのような。
まざまざと思い描くことが出来る。
迷い悩んだ三成は結局この様。夢とも現ともつかぬ状態で、それでも友の病をと、街を彷徨い刀を振るったのであろう。
無責任な意地の悪い揶揄、詭弁、己の中の義が揺ぎ無い価値基準である三成を、そのようなもので掻き回そうという輩は過去にも存在した。
「みつなり、教えてくりゃれ、思い出しやれ、何処のどやつが言いやった」
存在、した。
もう居ない。
大谷の金の両目が歪んで哂う。
そうして今度も居なくなる。
薄い唇から吐き出された名を受け止め、大谷はコクリと頷いた。
「よかろ、さあ三成、ぬしは戻れ。誰にも見られぬよう、早に早にな」
そう優しく囁いて視線を外せば、糸の切れた傀儡のように、三成はかくりと縦に頭を下げた。
翌日、久方ぶりに表に姿を見せた大谷刑部少輔はその白い頭巾姿ゆえに大層目立ち人目を引いた。病身でありながら、しゃんと背筋を伸ばし緩やかに、家紋の蝶のように優雅ささえ見せて城内をゆく大谷の、歩んだ後から密やかな声が漏れ始める。
それは件の辻斬りの件であったり、治りそうにもない病のことであったり、隠される容姿のことであったり。その場に石田三成が居合わせれば眉を吊り上げて食って掛かりそうな話題ばかり。
しかして素知らぬ顔で城内を闊歩していた大谷は、目当ての人影を見つけ、静かにそれに歩み寄った。
「お久しゅう御座います」
三成の、美しく整った唇から囁かれた名の主。
逃がすまいぞと深々と礼の形をとってみせる。
「これは…刑部殿、…」
ひぃっひ、ひ。
愛想代わりに引き笑いを零してみせれば、顔を引き攣らせた愛想笑いが返ってきた。面白くもあり、面白くもなし。
「我が友が世話になり申した。我が病への良案を授けて貰ったと、嬉々と言うておりましてなァ」
動揺か。瞬時泳いだ視線を見逃さない。
いやなに某は、なにほどのことも。
言い捨てて逃げ出そうとする相手へ一歩詰める。白い頭巾が眼前間近に浮かび上がり、小さく息を呑む気配がした。
「ほんに(赦さぬ)、よくもまァ(その戯れ)、三成にあのようなことを(命取りと知りやるがよかろ)」
柔らかい、やさしげな大谷の声しか、男の近従には聞こえなかった。
しかし男には、大谷の低く掠れた呪詛が言葉々々に被さるよう耳に届いた。
「ひ、!」
「ヒヒッ、ヒィッ、ヒ、ヒ、ヒ、…では失礼、我は礼を述べたかっただけ故に」
踵を返し、歩き出す大谷を止める者はない。
白い頭巾に、紅樺色の羽織り、それに紅緋の糸で施された対い蝶の家紋が、最後まで男の視線を離さなかった。
数十日後、件の男は呆気ない事故で命を落とす。
縁側で足を滑らせて庭に落ち、庭石で頭を打ったのだという噂であった。
「――刑部、またそれをしているのか、それは疲れると前に言っていただろう」
眉を顰める友に、薄暗い自室にて最近編み出した遊びに興じる大谷はまァ座れと畳を示す。
「なに、手慰みよ。ぬしも気に入っておったであろ?」
大谷の周囲を蝶が舞う。
否、生きた蝶ではない。布やら色紙やらを、それらしいカタチに切り取ったものどもが、ひらりひらりと舞っていた。
錦の一匹が、ひらりと三成の肩に下りる。
「私がこれを気に入ったといったのは、蝶に似ていると思ったからだ。だが私は模造の蝶より貴様自身という蝶の方が大切だ」
真っ直ぐ切り込まれ、大谷は肩を揺らして喉を鳴らした。
ぱたりぱたりぱらりぱらり。模造の蝶どもが畳に落ちる。
「…やれ三成、嘘の吐けぬぬしが憎らしい」
「?!」
「ヒヒッ、褒めたのよ」
「…貴様の褒め方は判り辛い」
拗ねたやや子の頭を、肉の落ちつつある薄い掌がゆるりと撫でた。
縁側で足を滑らせるという迂闊をした男が最後に発した声を、家の者が聞いている。
『蝶が!! 蝶がぁっ…!』
言葉の通り、庭石を枕に仰向けに引っくり返っていた男の傍を、ひらひらと鮮やかな羽虫は飛び去ったらしい。
そんな小さな虫けらが何の影響も及ぼせるわけもないと、家の者の記憶からは直ぐに消えてしまったのだけれど。
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