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いわゆる裏的な
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Posted by 瑞肴 - 2009.04.23,Thu
 

えー。

オリジナル設定もはなはだしいモノを置いております。





・ふたりのこどもがでとる
・とーちゃんもかーちゃんも男性ですもちろん
・なのにこどもが
・育ての親は幸雄と白服
・かーちゃんはおなくなりに、とーちゃんはどっかきえました

・とーちゃんとかーちゃんはほぼとうじょうしません
・こどもとゆきお出演



これに拒否反応が出ない方でしたらば、どうぞー。








「今よ! いきなさい!!」
「…了解」

ハイテンションの楽しそうな命令と、ローテンションの無感動な返答が、平山の意識の最後だった。




首の後ろに叩き込まれた手刀。痛いと思う暇も無い。一瞬で意識は失われる。




「う、うーんうーん… …死にたくにゃい… 死にたくなぁーい!!」

はっ。

目覚めた平山を見下ろすのは、冷め切った赤い双眸だった。

「………」
「………」

せめて、聞けよ、なんの夢だったとか聞いてくれよ。(聞かれたら聞かれたで困るのだが)

「って、なんだいきなり…っ!! 背後から不意打ちで手刀叩き込むガキに育てた覚えはねーぞっ!」

青年というにはまだ若い、中途半端な彼は、特に申し訳無さそうな素振りもみせずに視線を平山から逸らす。つられて、見れば、視線の先は窓だった。

古風な旅館、の。

「……へ?」

さっきまで居たのは街中、で。
いま寝かされているのは、旅館の布団の、中。

「なっ?! なんだ…っ?! 何があった?!」
「姉さんが、気を失わせて拉致れって」
「は……」

いみが わからん。

外見はまったく父親そっくりの青年は、母親そっくりの姉の言葉にだけは(大体)忠実に、動く。

「凡夫!! やっと起きたの?!」

しぱーんと襖が開けられて、隣の間から問題の姉が現れた。

「遅いわ! 待ちくたびれわよっ」

いや、あんたの命令であんたの弟に打撃食らわされてのびてたんだけど。
まあ、これでも彼女の母親よりはマシだ。母親の方なら、のびていた所を容赦なく二度目の打撃を与えて叩き起こしただろう、きっと。

「待つって、…いやだから、なんなんだよコレは…。何処に連れて来た?」
「温泉旅館じゃない」

そんな、至極当然のように言われても。

「ほら、温泉なんだから、温泉に入ってきなさいっ」

そこはまあ、正論かもしれないが。

仁王立ちの少女に浴衣とタオルを投げ付けられる。

「わーかったわかった…。入ってくりゃいいんだな?」

姉と弟のアイコンタクトは気になったが、確かにここは旅館で、満ちた特有のぬるい空気は温泉のものなのだろう、ならもう状況に任せてひとっ風呂浴びてくることにしよう。

「あ、おまえも来んのか?」
「…ん」

こくり、頷く。

追従するような性格では無いというのに珍しい。
姉を置いて、来るというのも珍しい。
流石に、男湯に彼女を連れ込むわけにもいかないとはいえ。

部屋からでて風呂場へ向かう途中で、此処はどうやら熱海であるらしいことを知った。まったくどうやって連れて来たのやら。
最近、がっしりした体つきになってきたとはいえ、青年ひとりで己を此処まで運ぶのは無理があるだろう。ということは、例の忠実な白服たちも加担したということか。

「…すげーなぁ、オイ」

天然掛け流しだという、広い風呂。古い雰囲気を持った館内だったのに、風呂場は小奇麗な造りをしていた。マメに改装をしているのだろうか。
こりゃ良い旅館だなと思いつつ、脱衣所で服を脱ぐ。自分たち以外には、誰も居ない。

「いくらシーズンじゃないからって、人が居なさ過ぎだろ。良さそうな宿なのにな…」

ズボンに手を掛けていた青年が、ちらりと平山を見遣る。

「…なんか知ってるな?!」
「…別に口止めされてないから、言うけど」

脱衣カゴに、ぼさりと衣服を投げ入れる。

「人が居ない方が静かで良いだろうって、姉さんが」
「……おーい、まさか……」
「旅館ごと貸し切りに」
「GYAAAAAAA!!!!!!!」

ねえ幾ら?! それ幾ら使ったの?!

思わず全裸で頭を抱える平山を、ぐいぐいと青年が風呂場へ押し込む。

それほどに、だだっぴろい旅館ではないようだったが、宿は宿。
一室あたり大体これくらいで掛けることの部屋数が大体それくらいだったとして… 計算し始める己が脳に、必死でブレーキをかける。考えたくない…。

顔に縦線いれて掛け湯して、とりあえず…体洗おう…さっぱりしよう。タオルを手に取ると、にょっきり横から手が伸びた。

「んん?」

タオルを奪った手は、それに石鹸なすりつけて泡立てる。
で、平山の背中をごっしゃごっしゃと摩り下ろし…否、洗い始めた。

「ちょ、待、…っ!!?」
「…何?」
「何っておまえ、おまえが何やって…」

問答無用、というように、続行。
こういう態度に出る場合、理由は決まっている。先程のアイコンタクトはこのことだったのだろう。でもなければ、一緒に風呂に入ろうなどという態度に出ないだろうから。

「またあいつかっ!! どういう命令だこれはー?!」

行動の指示の出所を的確に看破され、青年はやれやれと息を吐いた。

「”こうする”ものだって」
「…ハァ?」
「…まだ気付かねぇ? …ま、しょうがねえか…」






『週末、此処に凡夫を連れて行くわよ』
『……なんで?』
『前に凡夫が言ってたの忘れたの? 「ひなびた温泉宿…いいよなー」って』
『それは覚えてる』
『だからよ』
『…(だから、何故)』
『…。鈍いわねっ!』
『……? ……、ああ、週末は…。…… …』
『わかった!? 不満?!』
『…いや。…姉さんこそ、いいのか?』
『………何がよ』
『……』






最終的には、全面的に協力し(というか行使された)、この状況。
どうやらこのオッサンは、まったく気付いてもいないらしい。”それ”に。
仕方が無いと、思う。
どうすればいいのかなんて、わからなかった。姉も同様で、この日の為に書物で事前知識を掻き集めたようだった。その知識の中に『風呂場で背中を流す』というのがあったのだ。
これは、あんたよね、と言われ、当たり前だと頷いた。
なんだかんだ言いつつオッサンを信用はしているが、だからといって姉の裸体を供えられるかというと全く別問題だ。風呂は男同士で入ればいい。
ただ、今も、少し、不安ではある。
これでいいのか、『合っている』のか。
最期まで、この世の異物であり続けた母と、未だに、この世の異端であり続けているであろう父の血を継ぎ、暫くとはいえその2人の感覚の中で育てられた。己らは、たぶん、『ふつう』ではない。
ちゃんと『ふつう』に、出来ている、か?
このオッサンは、本来『そちら』に居る筈だった。
なんの運命の悪戯か、父に遭い(誤字ではない)、母に遭った(こちらも誤字ではない)オッサンは、薄闇の夕暮れ時から、真夜中の世界へ引っ張り込まれた。
…と、いうようなことを、以前母がちらりと口にしていた。




「おい?」
「…?」
「背中、痛いって。皮捲れる…」
「あ」

思考に没頭していた。
赤くなってしまった泡まみれの背中に湯を掛けると、悲鳴の後で軽いげんこつをかませられた。






部屋に戻れば、夕餉の準備が整っていた。
此方も風呂に入っていたのか、浴衣姿の少女がきちんと正座して2人を見上げる。

「お待たせ、姉さん」
「待ったわよ。どうして男2人なのに長風呂になるの」
「凡夫が湯当たりした」
「………」
「見るな!! 『凡夫はこれだから』みたいな目で見るなっ!」

したくて湯当たりしたわけじゃ…。
ぶちぶち言いかけた平山を、少女の高圧的な視線が制した。
さっさと座れと、いっている。

「うわ…、すげぇな」

また豪勢な膳であることだ。
ありがたいことにビール瓶も置いてあったので、手を伸ばす。

今度は少女に横取りされた。

「? 呑みたいのか?」

珍しい。ビールは確か、あまり好きではないだとか言っていた筈、だが(注:未成年)。

「違うわよ。グラスを出しなさい」
「へ?」
「呑まないのっ?!」
「あ、はい」

空のグラスを差し出せば、ぎこちない手つきで注がれた。
泡5:ビール5 くらいの割合だったが、それでも、嬉しい。いただきますと口をつけると、少女の猫目が珍しく、やんわりと笑う。

「………?」

口周りに泡をひっつけ髭をつくりつつ、平山は僅かに首を傾げた。
さっき、風呂場で、背中を流してくれた青年も、礼を言うと同じように微かに笑った。

「…おい、今日はなんでまた
「シゲト! いただきますをちゃんと言いなさいっ」
「…頂きます」

人の言う事聞きゃしねえ…。



散々、食ったり呑んだりを、して、これまた珍しいことに、少女も青年も、昂揚しているようだった。
その変化は微々たるもので、平山や、かつて王に仕えた者たちくらいにしか判らないくらいのものだったけれど、確かに。

部屋に備え付けの冷蔵庫には缶入りの飲み物しか無く、缶飲料を飲めない姉の為に茶葉を貰ってきた青年は、戻ってきた部屋に姉ひとりが寝転んでいたので、僅かに首を傾げた。
此処で倒れました、というような格好の、赤い顔で眠る姉に、布団が掛けてある。
「…?」
これを掛けたのは平山だろうが、どうしてまた。
平山の性格からすれば、こんな大雑把なことはせず、抱えて布団に移動させて、寝かせると思うのだが。
「…姉さん?」
「……ぅー…?」
ぺろりと、少しばかり布団を捲って納得した。
これは目に毒だ。
本人が覚醒するのに期待して、少し時間を置くことにする。布団を掛けなおしてベランダを見れば、そちらに平山は移動していた。

「布団、ありがとな」
「おう」

ったく、ねーちゃんに関することだけは素直だなーと、缶ビール片手に頭を掻いている。

「…凡夫?」

振り返らない。
不審に思い、横に並ぶと目を逸らされた。

「……おい、 ……!」

ちらりと半分見えた顔。

「…なに泣いてんだよ、あんた」
「……栞がさっき、…『ちゃんと出来てた?』って、聞いてきてな。…酔ってたんだろうが…」

カァンと、空の缶が落下する。

引き寄せられ、抱きとめられて、頭をぐちゃぐちゃに撫でられた。

「馬鹿野郎…、出来てたよ…っ、充分過ぎるくらいっ……」
「…あらら。姉ちゃん、自分でバラしちまったか」

平山が顔を埋める肩が熱い。
染み込んでくる涙は、なんとも不思議な感覚だった。

「『父の日』だから、あんたに何かしたいんだって言ってさ。…姉ちゃんも俺も、そういうことはあんまり分かんねえから。…ちゃんと出来てるか、気にしてた」
「……俺、…俺が、……ッ、…俺のこと…」










『凡夫、喜ぶかしら…? 驚く…?』
『……喜ぶんじゃない? …多分…』
『…言っちゃダメよ!? 気付かなかったら、それでいいんだから!』
『……わかった』








言った方が喜ぶのではないかとは思っていたが、まさか泣かれるとは思わなかった。

「…そっか、…へへ、……俺がなあ…」
「……、…泣くほど嬉しかった?」
「~~っ そっ…、……そりゃ、な…」

照れ臭いけどよ。

「…そうか」

なら良かったよと笑い、落ちた缶を拾い上げる。

「まだ呑むんだろ?」
「おう、…おまえも呑め! 今日は俺が許す!!」
「…あんたに許されなくても呑むときは呑む」
「かわいくねぇ…」



偶には、いいじゃないか、と。
のっそりと起き出してきた姉の浴衣が整えられるのを待ってから、夜明けまでを3人で。

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