…昨日の記事の、その、設定の、あの、赤ワシです…。
ひっでぇもんです。
神域が、ダメギならぬダメ神域になっております。柄の悪いオッサンです。
天の「赤木しげる」以外はちょっと無理、て方にはお勧めできません。
R18ですので更にお気をつけ下さい。
……それでもよろしければ、どうぞー……。
第一部 完
なんぞ第一部って。でもまあこれで区切りっちゅうことで。
「あの、……ウチに来られませんか?」
「あ゛?」
「近いんです、ここから。…この雨だと、車でも長い距離の移動は危ないですから…」
土砂降り、というか、バケツをひっくり返したような豪雨。
既に夜中ということもあり、真っ暗で、この山奥のロケ地から都内に戻るのは少々骨が折れる。面倒くさいことになったと眉間の皺を深くしていた赤木に、ワシズがおずおずと提案した。
「…ご迷惑でなければ」
常の顰め面のまま考え込んでいれば、付け加えられる。
別段、赤木は迷惑などとは思っていない。考え込んだのは、”ウチ”というのはつまり”鷲巣家”であるということで、つまりそこに鷲巣巌が居るかもしれないという部分が気になったからだ。
大先輩である。
赤木が、唯一心から尊敬している俳優だ。遭遇したら、緊張どころではすまないかもしれない。しかしワシズの言うとおり、この雨はどうしようもなく、まさかここで一夜を明かす気にもなれず。
「……チッ しょうがねえか」
まあ、会ったら会ったときのこと。覚悟を決めた赤木は、よっこらとソファーから立ち上がった。
「連れてけ」
「…はい!」
ワシズの使用人が運転する車について自車を転がし、山を降りていく。
何度もカーブを曲がると、大きな門が待ち構えていた。
「デケェ家だな、オイ」
咥えた煙草の火が揺れた。
門を潜っても少し車を走らせなければいけないというのは、どういうことだ。
前の車が止まる。合わせて停車すれば、わざわざワシズが傘をさしてやってきた。車のドアを開ける。
「車は駐車場にいれておきますから、赤木さんはどうぞ此方へ」
ワシズの背後で白スーツが一礼した。車を任せろということだろう。ワシズの差し出したもう一本の傘を借りて車を降り、これまたデカい洋風の館へ向かう。
「こっちのお風呂は直ぐ使えますから、すぐ温まって下さいね」
「…は? こっち、の?」
「あ、こっちは父の住まいなんです」
そういえば、鷲巣邸は敷地内に”父親用”と”息子用”の邸がそれぞれあるのだと、聞いたことがあったなと今更思い出す赤木であった。
「っ!!?!」
ちょ、おま。
いきなりラスボス(違)出現か。心の準備ってモンが。
うおおおお玄関の外で待ってるぅうううううう。
以上、神域心の叫び。
「お父さん」
「ああ、おかえり。…赤木さん、ご災難でしたね、この大雨は」
「…っ、…はい…」
背筋が、自然に伸びる。
もういい夜中だ、寛いでいたのだろうなと、深みのある赤いガウン姿を見れば判る。それがわざわざ、自分より随分年下の、キャリアも下、の、息子の仕事仲間の為に雨の中玄関まで出迎えてくれたのだ。
不快な湿気がすべて取り払われるようだった。厳か、という表現がしっくりと当てはまる、老人。
「…夜分に、どうも」
「構いませんよ、歳を取ってから宵っ張りになってしまってね」
くふくふと笑う。
「お父さん」
「ん、失礼、そんなことより風呂に案内するのが先でした」
くふ、ふ。
柔らかく笑い、さあ、どうぞ、と、先に玄関を上がられる。すぅるりと、長い白髪が流れる。
…緊張するってレベルじゃねーぞ。
「じゃあ、ゆっくりなさって下さい。上がったらお迎えに参りますから」
「はぁ?!」
ボクは自宅で風呂に入ってきますね、とワシズが消えて、赤木は流石に大人しく、殊勝に、鷲巣の後に続いて歩き出した。
緊張しきって、疲れ、た。
ベッドに沈み込み、赤木はガシガシと頭を掻いた。
いま居るのはワシズ邸だが、先ほどまで居たのは鷲巣邸。
不良凶悪中年と名高い赤木だが、鷲巣が相手では普段の傍若無人ぶりの一欠けらも出せなかった。深い、人間だと思う。甥が一も二も無く心酔し、懐くのも判るというものだ。
「……ッフー」
1本だけだと、寝煙草を。
しかし、アレからアレが生まれるのだから、世の中というものはよく判らない。
再び頭を掻けば、控えめなノックが聞こえた。
「なんだ」
「赤木さん、…もうお休みですか?」
「……いや」
「入って良いでしょうか」
「あんたの邸だろうが」
だから勝手にすりゃあいいと付け足せば、躊躇いがちにドアが開かれた。
パジャマ姿のワシズが入室してくる。
「んだ、そのファンシーな寝巻きはっ!!」
「ぁぅっ」
水玉…まではかろうじて、かろうじて、妥協してやるとしよう、なんでその水玉がパステルピンク!!
「……~~~、で? なンの用だ?」
こちらは、寝台の上に用意してあったガウン姿の赤木。苦虫噛み潰しつつ聞いてみれば、ワシズは立ったままきょときょとと視線をさ迷わせる。最終的に、やっとこ赤木に視線を落ち着かせた。
「…あの、…お話しても…いいですか…?」
緊張しているのか、単に怯えているのか。このファンシーっぷりといい、俳優として人間としての鷲巣は尊敬に値するが、息子の育て方は少々気合が足りなかったのではないかなどと、不敬な思考が赤木の頭を掠める。
もう、とりあえず座れ、とその辺の椅子を顎で示せば、ワシズはやっと腰を下ろした。
「ずっと、赤木さんとお仕事の話がしたかったんです」
「フン」
そういえば、自分のファンだとか言っていたなと思い出す。
一宿の恩が出来てしまったのだ、少しくらいなら話に付き合ってやっても良い。喋れ、と鋭い目で先を促す赤木に、ワシズは嬉しそうに口を開いた。
仕事の話になると、途端にワシズは饒舌になる。
本人はまったく気付いていないのだろうが、目つきも変わる。
爛々と、真っ直ぐの、強い眼差し。
「……? 赤木さん?」
普段の、柔和で気弱に見えるワシズとは、まったく違う。
「赤木、さん…?」
こんなに脆くて強いものを、不用心に誰にでも晒しているのだろうなと、思えば、酷く心が揺れた。信頼しきった善意。深ければ深いほど、純粋であればあるほど、それを裏切ることに抵抗が出来る(あの腹黒い『右腕』が良い例だ。深い信頼を寄せられ過ぎて、己の相手への想いが重すぎる故に、枷となってしまっている)。まして相手はあの”鷲巣巌”の子息。
だからこの男は、今まで”このまま”で来られたのだろう。
「……あんたは、本当に俺が好きなのか?」
「…え…?」
「……」
「…? …はい、」
大好きなんです。
笑みを、浮かべて。
「…そうか」
咥えていた煙草を灰皿に押し付け、立ち上がった赤木は手を伸ばしてワシズの腕を取った。
ぼさりとベッドの上に放り投げられても、ワシズはただ驚いて見上げているだけ。小動物のようだと、赤木は思う。いや、腹が割れているのは知っているが。
「好きっつったろ?」
「…はい。…赤木さん?」
泣き喚けばいいと
口端を僅かに歪めながら、そんなことを考えた。
抵抗されると面倒なので、両手を件のパジャマの上着で一まとめに括り、本人の頭の上に放置する。気が抜ける柄のズボンも引っこ抜いて、放り投げる。
下着一枚になっても、ワシズは激しい抵抗は見せない。ただ困惑した眼差しで、赤木を見ていた。
ひたりと、首筋に舌が降りる。
「ン…ッ?!」
そのまま甘噛みをすれば、肩だけでワシズが身じろいだ。
「赤木さん…っ」
首の付け根部分を片手で鷲掴み、ベッドに沈ませる。呼吸が詰まったのか、んく、と小さく音が漏れた。
「俺が好きなんだろ?」
「……? …? っは、…ぃ」
肩に、歯が食い込む。
「ふ、ぅ?!」
赤木の手が体を弄る。
確かめる、ように、胸板のラインから脇腹を通り、腰、足へ。
足の付け根を指先が擽ったとき、流石に身を起こそうとしたワシズだけれど、赤木の舌が胸の突起を押し潰したので意識が逸らされる。
「ンふっ!」
未知の、感覚ではあったが赤木が何をしようとしているか、流石におぼろげながら予測はついた。だからなのか、どうか、舌を押し返すように突起が硬く立ち上がる。
「…~~ん、…く…っ」
ぬるぬると執拗に、舌先に弄られる。もう片方の突起にも、赤木の指が掛けられ指の腹でこね回される。
「ヒァッ…?!」
痺れるような、刺激に意識がそこへ集中する。痛みにも近い感覚の筈なのに、呼吸が荒くなっていく。
「あかぎ、さ、」
声が上擦った。何を言っていいのか判らない。赤木の名前を呼ぶことしか思いつかない。
「赤、木、さ、ん…っ …っくは…」
突起に歯を立てられて、ワシズは大きく顎を逸らせた。
内股を撫でていた赤木の掌が、するりとワシズの、血の集まり始めた熱に絡められる。軽く握られたかと思えば、直ぐさま上下に手を動かされ、扱かれる。
「ん、やっ、…赤木さん…っ?! やめ、止めてくださ…っ」
赤木の手の中で硬度を増していくそれが恥しかった。けれど赤木は応えずに、先端から溢れてきた先走りを塗りたくると、容赦なくワシズの悦楽を引き出そうとする。
次第に、手の動きと共に濡れた音が響くようになってきて、ワシズは何度も頭を振った。
「やあっ…、ァッ、あ、あ…ッ」
「……何が…」
一層激しく先端だけを挟まれ扱かれ、ワシズのモノが大きく跳ねる。
「ぁう…っ?! ヒッ!!」
「何が嫌、だ? 俺がか?」
ぎちりと、胸の突起に歯を立てられた。
「ヒャゥ…!! ち、違、…ちがい、ま…っ…」
両足の間に陣取り覆い被さっている赤木が薄く笑う。
「…クク、なら、イイんだな」
「ぇ… ぁ、ぅあ!! あ゛…ッ!!!」
ワシズの体液で濡れた指が、第一関節まで奥の穴へと埋め込まれる。
「イイだろ? ほら、ウソツキは嫌いになっちまうぜ?」
軽く、指を曲げ、前立腺を中から刺激すると、異物感に萎えかけていたワシズの前が硬さを取り戻していく。
「ひぁ゛…ッ!!」
指の腹が、ワシズが声を上げた箇所を何度も、何度も擦り、ゆるりゆるりと突き上げる。
「ぅあっ…っ?! な、ぁ、…っ あか、ぎ、さ…っ 何…っ?!」
だがキツイ。締め付けに、動かし辛い指に赤木は低く舌打ちし、圧し掛かっていた体勢を、変える。
ワシズの両足の間に頭を沈め、半ばまで中に埋まっている己が指へと舌を伸ばした。
「ヒゥ…ッ、や、……」
体勢を理解したワシズが怯んだのも束の間、唾液でたっぷりと濡らされた指が、無遠慮に奥へと突き入れられた。
「……ウソツキは、嫌いになるって言ったぜ、俺ァ」
「…ッツ」
「ぁあ゛? 足開いておっ勃てて、嫌とは言わせねえ。イイだろうが? 中に突っ込まれるのもよ」
また、指先が引っ掻くように、中の感じる部分を突いて、ワシズの喉から切ない息が漏れる。
再び前への刺激も加えられ、膨張した形を知らしめるように、指を上下に動かされた。先端からとめどなく、雫が滴る。血色の良い先端の粘膜が、赤木の視線に晒されて泣いている。
「や、……」
「……」
「…………、…ぃ、… す… …っ」
泣き濡れた目は赤木の頭から逸らされ、シーツに沈む。
「…聞こえねえ」
「~~っ ……」
円を描いて指が動かされた。
奥へ奥へ、悦楽も羞恥も困惑も、なにもかも暴いて晒して見せ付けたいとでもいうように、激しく、強く。ひくつく内壁を押し広げ、雄の本能を捻じ伏せて、足を開かせ指に合わせて腰を揺らさせ、犯される性に喘げと捩じ込まれる。
「ぅあ…ッ、… …ぃい、です、… 気持ち、っぃ… …」
そうして一気に、引き抜かれる。
「ヒ、ぅ?!!」
腰に腕を回され、ひっくり返される。赤木の両手が腰を掴み、軽く膝を立てさせられた。
ひたりと、熱があてがわれる。指が入れられていたところに。
「赤…ッ ぅ゛あ゛… …ぃ、…った、…痛、…っ やぁ、…だ、やだ、や…っ」
先端からずぶずぶと埋まる。痛みよりは恐怖が強い。実際問題、赤木の指でほぐされきった箇所は、かろうじてだが赤木のそそり立ったモノを受け入れている。
「……クク、まだだ」
腰が押し付けられ、赤木のすべてが中に入ったのだと、わかった。
「ふ、ぁ、あ、…あ、あ…っ」
もう、何がなんだかわからない。痺れる感覚があるということと、赤木が硬くてどうしようもないということくらいしか、わからない。目尻から流れる涙が、溢れる唾液と交じり合って顎からシーツへ落ちていく。
「動くぞ」
「ぁ゛う…?! ヒァ…ッ、ぁ、…っか、ぎ、…」
赤木の腰が動くと、穿たれる。
深く浅く、ワシズの鳴き声をより引き出すよう、凶悪な熱さがワシズの中を掻き回す。
「あかぎ、さ、ん、…っ、…な、か…変……ッ 変、な、…っ」
水音が立つほど、何度も。ワシズの中は赤木に縋りつき、締め付ける。
「っめ、…だめ、…っ やだ、やだ、…っ や、ぁ!! きもちぃ、の…ヤ、で…す……」
「……っへ…ぇ…?」
手が伸びて、ワシズの、限界まで張り詰めたモノを扱き始める。にるりと、赤木の指を先走りが汚し、ワシズが震えた。中が、小刻みに痙攣する。
「やぁ、…っ ん、ン゛、ッ出… …っ はずか、し、ぃや…、や…ぁッ… ぁああああッツ!!」
「っく……ぅ…!」
奥まで突き入れられると同時にワシズは赤木の指を濡らしながら欲情を吐き出し、赤木もまた、痙攣しながら断続的に、何度も締め付けるワシズの中へと精を放つ。
「ぅ゛、あ………」
互いの性器はまだ震えていたけれど、ワシズの意識はそこで途切れ、全身から力が抜けた体はベッドの上へと崩れ落ちた。
意識を失ったワシズを抱えて、備え付けのシャワールームに連れて行った。
中に出したままでは不味いだろうと、相手の意識が無いのを良いことに、大きく両足を広げさせ、壁に凭れかかる形で安置した。頭から湯のシャワーを掛けようかとも思ったが、己がつけた噛み痕がそこかしこにあるので、止める。薄っすら血の滲む痕には痛むだろう。
シャワーから出した湯を掌に溜めて、かけていく。汗と精液で、そこかしこがぬるぬると滑った。
「…… …ぁかぎ、さ……ん…?」
僅かに持ち上げられる瞼。ぼんやり覗く黒目は、焦点がまだ合っていないようで、ゆるりきょろりと動かされている。
「………」
「……あか、… …。 …ゆめ…?」
反応しようとしない赤木に、ワシズは不可思議そうに瞬きする。うろんと、瞼が降りていった。疲弊しているのだろう。
「…ユメ、なら…」
湯で体を流され、注がれた精液を掻き出されて、眉を僅かに顰めている。
「……あかぎさん、… …あの、 … …我侭、…なんです…わがまま、なんです、…けれど、…宜しければ…」
かくんと、頭が落ちた。ほぼ意識は無いだろうに、相変わらずの敬語に低姿勢とは、筋金入りの馬鹿なのかボンボンなのか天然なのか。選びかねている赤木に、ワシズの次の言葉が突き刺さった。
「… …口付けて、いただけま、…せんか…?」
「―――、…っ」
ああ、そうだ。
肝心の言葉を隠し、告げないばかりか、それすらも。
目を細めた赤木は、ゆっくりと、完全に瞼を伏せたワシズの、噛み締めて切り傷の残る唇に口付けた。
「………ん」
「……」
ふわりと、綻ぶよう笑い、ワシズの意識は再び途切れる。頭が壁へと力なく、凭れていった。
薄っすらと空が明るい。寝台の上のワシズはまだ目覚める気配はなく、赤木はソファに掛けて、これでもかと煙草を吸っている(窓を開けるわけにはいかないので、備え付けの空気清浄機をガンガンに稼動させている)。
頭を抱えながら、思い出した逸話が、ひとつ。
時代劇に出演していた鷲巣が外でロケをしていた時のことだ。現場に、撮影スタッフの女性の元恋人が現れて、その女性を刃物を持って追い掛け回す、という事件が起きた。
逃げ惑う女性と、刃物を振り回す男性。取り押さえようとするスタッフ数名も怪我を負い、とにかく警察をと慌しいその中で、鷲巣は小道具の鞘に収まった日本刀を手に、スタスタと女性と男に近付いていった、らしい。
女性に馬乗りになり刃物を振り上げた男に背後から静かに接近し、首筋へと、鞘入りの刀をひたりと押し当てて。
『女性に乱暴を振るうなど、誉められたものではない』
低く、ただ低く深い声で告げたという。男はその瞬間に手の中の刃物を取り落とした。
後に、突き付けられていたのは小道具などではなかった、真剣だったと、半狂乱の男が何度も警察に主張したのは、鷲巣がその時放っていた気配の所為だろう。
そう、まるで、本当の刃をあてがわれたかのように、冷たい感覚が男を襲ったのだ。
凍りつきつつ見守っていた共演者もスタッフも、鷲巣がそのまま手にした日本刀で、男のそっ首落としたとしても違和感など無かったと口を揃えていたという。
「………っ」
まあつまり、
落とされても申し開きも出来ません、っつーことをしたよなと、後悔しきりの神域であるわけで。
「……んー…?」
もそもそとベッドの上が蠢く。起きたのか、起きるのか。
ただじぃっとそれを観察する赤木と、ベッドから身を起こしたワシズの視線が絡んだ。
「…おはようございます…」
「……」
黙ったままの赤木に、ベッドから降りようとしたワシズが、そのままデコから床に落下した。
「ぃあっ?!」
ごッ。
鈍い音。
流石にこれは助けないわけにもいくまい(多分ワシズが転がり落ちたのは、腰に力が入らなかった所為だろうから)、差し伸べられた赤木の手をとって身を起こしたワシズは、いつものように笑った。
「ありがとうございます」
「……」
「…? 赤木さん?」
「…っ馬… ……」
馬鹿野郎、呑気に礼なんざ言ってほんっとーーーに…どーしよーもねぇ…っ!!
出掛けた言葉、かろうじて赤木の喉に留まる。
理不尽極まりないにも程がある。44歳の成人男性として、それはどうよという自戒が流石の自制を起動させる。
青筋は隠せなかったが、どうしようもない。そのままワシズの腕を引っ張って、ベッドの上に転がした。そうして、抱き締める。
「…赤木さん…」
「……。どうして怒らねえ」
愚問だ。
わかっているが、赤木は問うた。
「赤木さんが好きですから」
途端、赤木の顔上半分が真っ赤に染まる。 怒られる?!と首を竦めたワシズは後に怒鳴り声が続かないので、そろそろと赤木を窺い見た。
赤木は、苦虫千匹噛み潰した顔で、赤面したまま。
「…赤木さ…、……ぁう、その、ご迷惑でしたか…っ?! すいません、すいませ…っ
指が、ワシズの唇をなぞる。
「…ぁ゛? …ボケてんじゃねえぞ」
「はう…」
「ベタ惚れなのは俺の方なんだよ、この鈍チン」
「へ…」
赤木の唇が重ねられ、ああ、あれは夢などではなかったのかと、ワシズは柔らかく目を細めて微笑んだ。
朝陽の中で、暫し口付けが続けられる。
不良凶悪中年と、天然善良中年のオツキアイは、どうやら今やっと、幕を開ける。
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