いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2011.01.04,Tue
自分でいうのもなんですが、非常に気に入りました。
むこうぶちSS、狗と氷の男。
むこうぶちSS、狗と氷の男。
少し眠って、起きて、江崎のいれたコーヒーを飲んだらビルの屋上へ行きましょうかと誘われた。
「管理はどうなっているんだ」
「ああ、ここは自社ビルでして。さっき管理室から鍵を借りました」
あ、そう。
江崎が属しているモノについては興味が無い。聞かなければ、基本江崎は教えないし答えない。それでも問題は無いだろうと、日蔭はそう考えていた。
例え聞いても、江崎は教えたくないことは教えないし、答えたくないことには誤魔化しを使うだろう。それくらいにはこの男を理解している。
屋上への階段を上がりきると、まだ薄暗い空。雲は少ない。これなら日の出を邪魔するものもないだろう。そこそこの高さのビルの上は強い風。
「日蔭さん」
さっきまで包まっていた毛布を渡された。
コートを置いてきたので冷たくて寒くてかなわない。受け取って羽織る。まだ時間はあるだろうと東を向き、貯水タンクを囲っているフェンスに凭れて座り込んだ。
「…寒くないのか貴様は」
江崎は、いつものスーツ姿だ。少し皺が寄っているそれだけでコートすら羽織っていない。
「寒さには強くって、これくらいは平気なんです」
顔色も変わらない。成る程本当に寒さに耐性があるらしい。そういえば、代謝が良いからなのか江崎の体温は自分よりも高かったかと思い出す。
風を受け、長い黒髪がばさばさと。
薄い蒼になりつつある空を背に立つ江崎は何故か様になった。
することもなく、毛布に包まっていれば再び眠気が襲ってくる。高レート麻雀の場は夜に動くことが多いので、日蔭の体は夜型として整えられている。日常であれば、いまからが眠るくらいの時間なのだ。江崎も心得ているので、直に夜明けではあったが声を掛けることなく置いておく。
冷たい風、それだけで感想を述べるなら心地好いものだった、それを受けて。
「都心の空は狭いですねェ」
呟いた。
もっと、広かった。あそこはもっと。
吸い込まれそうな広さは心を洗うかもしれないとチラと思いもしたけれど、そんなことにはならなかった。
どこまでも、どこまでも己は浅ましかった。
そして好き好んで辛酸舐めて、狭い空しか見せてはくれない陸に戻った。
戻ってから、息苦しさを感じなかったといえば嘘になる。海は過酷ではあったが人のような薄汚さを持ち合わせていない。
「日蔭サン、そろそろです」
朱色の光が現れる。
ほぼ閉じていた日蔭の瞼が持ち上がり、視線の先に立つ江崎を見遣る。
光が射した。
「夜が、明けます、ほら」
現れた太陽に背を向けた江崎の影が徐々に長く、伸びる。
座った顔にまで届いた影は、すっぽりと日蔭を飲み込んでいく。
逆光。
江崎の顔は黒く塗りつぶされて見えないが、その表情は手に取るように分かった。笑っている。いつものように、なにが面白いんだか両の口端を上げて。
「 嘘を吐くな 」
返された言葉に、江崎は細い、開いているのだか閉じているのだか判らない目の瞼をピクリと動かした。
脳内で、日蔭が告げた音を反芻して薄く両目を開いていく。
黒い影に飲み込まれたまま、ぶっきら棒な声が続けた。
「明けてなどいない。貴様も、俺も」
江崎の胸が歓喜に震える。
顔に浮かんだのは、壮絶な笑みであった。獣じみた。
「はい、…はい、そうです、まだ」
理解されたことが嬉しいのではない。
同じものがいたことが嬉しいのでもない。
日蔭がそう在ってくれたことが、何よりも嬉しかった。この男は雀鬼である。江崎とも、無論傀とも種類は違うが、正真其れであると思い知れたことが嬉しかった。
人鬼に破れ、江崎は明けぬ夜の闇に落ちた。この闇が明けることはない。人鬼を麻雀で刺し殺したところで明けるかどうか判らない。
「ですが」
まだ太陽に背を向けたまま、座ったまま見上げてきていた日蔭と視線をかちりと合わせる為に膝をつき、鼻を付き合わせる。
「とても良い年明けです、貴方と過ごせて、こんな日の出が拝めるなんて」
その言葉は、嘘ではない。
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