踏み台

ぴくしぶには投稿済みですが、こっちにも置いておきま。
BASARA3、大谷さんと官兵衛さん、そして三成。

御輿から降りようとした大谷の体が僅かに揺らいだのを、赤き若虎は見過ごせなかった。

「大谷殿！」

どうぞ、手を。

差し伸べられた、手甲の外された手に大谷は心中息を吐く。
やれもやれも、手を貸されるなど業腹だが、その手が何の躊躇も無く素手であることに、
些かの諦めを感じえない。

「よい、よい。ちゃあんと踏み台は用意してある故な」
「　？　」

そんなものは見当たらず、首を傾げながらも素直に一旦手は下ろした若虎は、
どこぞの凶王よりは余程聞き分けが良い。
ひよひよと御輿を泳がせ、そこから離れると傍観者であった男に声を掛けた。

「暗よ、暗」
「…なんだよ」

警戒しながらも呼ばれれば応えてやる黒田の律儀さよ。
大谷はたった一人以外には分からない程度に口端を歪め上げた。
隙間無く包帯に巻かれた手、指先が地面を指す。

あ、なんだろう、嫌な予感。

「這え。踏み台よりは役に立つであろ？」
「なんでじゃあああ！！！　なんで小生が！！　お前さんの踏み台にならねばいかんのじゃ！！！」

憤りを表すにしても両手は手かせで塞がれている。
黒田は行き場のない怒りを地団太で表すことにした。じたばたじたばた。
そこそこの巨体、筋肉の塊、むっさいのが暴れているというのは非常に鬱陶しいもので。
大谷はわざとらしく肩を落とすと殆ど包帯に隠されている顔をしかめた。

「やれ酷いものよ。勝ち戦帰りの軍師が御輿から降り休息を取ろうというのを　ぬしはさせぬつもりか」

なにそれ　それで断ったら小生ワルモノじゃん。（這えだとか云われたのはさておき）

しかし

黒田は思う。黒田は馬鹿だが暗愚ではない。
大谷の言葉を随分と削って削ってヤスリをかけて磨ききれば、
黒田の手なら取っても良いということでもある。

「這えって、背を踏みつけるつもりだろうが。それよりホレ」

手かせをされたままの両手、指を組んで、御輿と地面の中間より少し上の位置に配置してやる。
包帯の下の片眉が上げられる。

見上げる黒田は、特に言葉で促すではなく待っている。
その黒い、もさもさした頭に、容赦ない動作でもって大谷の手が下ろされた。そして、わしりと掴む。

「いでっ！」
「踏み台よりは役に立つのであろ？」
「うるせぇよ！！」

杖を掴む強さで固定し、ゆるりと広い掌の上へと足を下ろす。
これほど強く、乱雑に掴まれても、黒田の手が引かれることはない。

全体重が黒田の両手の上に乗った。
その瞬間。

「刑部ぅうううう！！！！！」

不運補正キターーーーー。
鬼の形相…というよりは、鬼そのものの勢いで凶王・石田三成がすっ飛んでくる。

残・滅！！

一瞬で切り飛ばされる黒田と、宙に放り投げられたかに見えた大谷は
きちりと石田の腕の中に横抱きに収められていた。

「刑部！　何故　私を呼ばない！！」
「地に足つける程度のことで、ぬしを呼ぶこともあるまいて」
「構わん、呼べ」

ヒヒッ。　大谷の喉から掠れた引き攣った音が漏れる。
仕方が無い、というように。
困ったやや子だというように。

本当に。

「あいわかった、次からは気をつけよう」

気をつけるつもりが更々無いのは石田にも黒田にも分かりきっている。
いるが、いまそれを責めたところで大谷はのらりくらりとかわしてしまうだろう。
現行犯でなければと、それくらいの思考は石田にも出来る。

そうして、ようやっとのことで地面と足のご対面を果たした大谷はやれやれと大仰に首を横に振った。

「刑部！」
「わかったワカッタ。では参ろうぞ、三成」

差し出された杖で体を支え、大谷が歩き出す。まだ、かろうじて、支えがあれば、
平坦な場所であれば、自力での歩行も不可能ではない。
その少し前を石田が歩き、暫く後ろを、仕方なく黒田が歩き出す。

西軍の、微妙な（力）関係の人たちは、常時こんな感じ。