いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.10.12,Tue
勢いだけで書いた、日蔭さんSS
パラレル妖編。
つまり日蔭さんが妖怪です。最後に少しだけ、狗も。
パラレル妖編。
つまり日蔭さんが妖怪です。最後に少しだけ、狗も。
最初の記憶は、追い立てられた記憶であった。
山の奥に棲んでいた、ただそれだけのことだったのだが、そのうちそこに人が入り込んできて、騒がしくなったものだと迷惑していた。――それだけだった。
しかしどうやら己の身の毒は人には強すぎたようで、近付くだけでむせ、咳き込み、膝を折らせてしまう。
しかし彼は特別に気にはしていなかった。そういう身なのだ、どうもこうもない、ずっと以前から彼は此処に棲んでいた。それで不都合など、おこらなかったのだから。
事態が一変したのがいつだったか、確か初冬であったように思う。
野焼き、と称して、彼の棲みかの一帯が焼き払われた。
――何故だ。
彼は憤った。
毒を持つ蟲がいるから山に入れぬと、それがなんだというのか。
動物たちはとっくに彼の毒性については身をもって熟知しており、不用意に彼の棲みかには近寄らず、また彼が通った後を慎重に見極め、そこに残る燐粉を吸わぬように暮らしていた。
なので彼も、悪戯に棲みかから遠出することはなく、様々が寝静まった夜にのみ出歩くよう自らに配慮の枷をつけた。
獣に出来ることが、何故出来ない。
彼は憤った。
山を焼かれたことで、動物たちも彼を迷惑がった。どれほどの者が焼かれたかを思えば、流石に気に病まざるをえない。彼が、原因である、のだから。
仕方が無く、彼は山を降りた。
降りた行き掛けの駄賃とばかり、麓の集落の上空を、彼本来の姿で飛んでやった。
大きな、とても大きな真っ白い蛾が月夜の空を飛んだあと、その集落から人の気配は消えうせた。
ああ、意図的にすれば、このようなことになるのか。
彼は客観的に自分を、そのとき恐らく初めて本当に理解した。
ならば、と思う。
己を害するものには、こうしてやれば良い。
次の棲みかは人の墓場。
とても静かで、煩いのを好まない上に鬼火を主食とする彼には良い場所だった。暫くはそこで過ごすのだけれど、やはり今度も其処を追い出されることとなる。
曰く、墓場に棲む白い蟲は死体を食って毒を出し、出した毒で殺した人間をまた食らう。らしい。
――誰が、食うか!
やはり彼は憤った。
夜にしか動き回らない己が、一体なにに迷惑をかけた。
時折出る鬼火を食らってやっているだけではないか。ものを食らわなければ、妖といえども生きていけない。生きる為にものを食えば、不愉快な言いがかりをつけられる。
なんだ、それは。
苛立ちが募っていた所為だろうか、うっかりと、彼は本性の姿を見回りをしていた坊主に見られてしまった。
悲鳴と、明確な、敵意、嫌悪。
――何故。
この身を醜いと忌み嫌うか。身の毒が恐ろしいと怯えるか。
ただ、”そう”として生まれついただけだというのに、何を身勝手なことを。
蝋燭の火を布に移したものを投げつけられたとき、あまりの怒りに彼は大きく羽根を羽ばたかせてた。
激しい咳と断末魔。
土の上を転がる坊主を見下ろす。
何故、そんなにも弱いというのにこちらに刃向かってくる。
弱いものが強いものに無闇に刃向かうから、こういうことになる。
身の程を弁えていればよいものを。
様々な思いが彼の身の内に生まれ溢れ出たが、取らなければいけない行動はひとつであった。
また、新しい棲みかを探さなければ。
そんなことを何度繰り返したか、流石に忘れてしまったころに、あれに遭った。
黒ではない、闇でしかない。
伸ばされた手に掴まれれば、魂まで貪り食われる。
妖としての本能がそう告げて、夢中でそれから逃げだした。
よろよろと飛ぶのだけれど、まだ明けない空の黒がアレと同じに見えて恐ろしい。疲労と緊張感に途切れがちになった意識の最後は、墜落して地に落ち、土に伏せた感触だった。
「… ………か?」
「………」
声が聞こえる。
朦朧とした意識を声の方向へむければ、男が1人立っていた。
人間のように、見える。
己は未だ本性の蟲の姿のままだった筈だ。
それを平気で見下ろしているということは、これは人ではないのだろうか。
「……なん、だ、貴様…」
己を食らうつもりか。
渾身の力で、地につけたままの羽根を羽ばたかせる。
土埃が舞うだけで空に浮かべたわけではなかったけれど、同時に毒を含んだ燐粉も宙に舞う。それを吸えば、人間ならばもがき苦しむ。
「貴方に敵意はありません。さっきの戦いを拝見しておりました」
先ほど立っていた男は居ない。
毒の空気の中には狗が居た。
否、それを狗といっていいものか、彼にもよくわからなかった。狗のようなもの、というのが近い。
「…貴様は、なんだ」
狗が笑った。
口端を吊り上げ牙を見せて。
「私は、ただの狗です」
お疲れのようですネ、安全な場所にお連れしましょう。
馬鹿丁寧な口調で狗がそういったのを、聞き取ったのが最後だった。
いい加減疲れきった羽根は地に伏せ、ピクリとも動かなくなる。
人鬼に襤褸雑巾にされた日が、狗に初めて会った日。
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