いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.07.07,Wed
むこうぶちSS
狗とその部下。日蔭さんの出てこない日蔭×江崎
狗とその部下。日蔭さんの出てこない日蔭×江崎
ビルから出てきた人影に、背が粟立つ。
嫌な予感に限って外れることは少ないもので、エレベーターを使うのももどかしく駆け足で階段を上り扉を開ければ、予想通りの靴がそこにあった。
「大哥…?」
見慣れた靴。
衣服にこだわりはない江崎だが、審美眼とセンスは優れているようで、靴やネクタイや、そういった小物類に一々洒落たものを選んでいる。だから、江崎の靴だけは見分けられた。
「ああ、戻ったンですか」
台所で顔を洗っている後姿。
腰を伸ばしてハンカチで適当に顔を拭えば、冷蔵庫を開けている。
「大哥、報告は後からで。…奴を追います」
冷蔵庫から出した茶の缶を頬に当てた江崎が振り返った。
正確には、殴られた痕に、冷えた缶をあてがった江崎が。
そうして意外そうな顔をしている。
「追う?」
もどかしい。
のらくらと江崎と問答を続けてしまえば、あの男を探し出せなくなってしまう。
そうですと言い捨てて駆け出そうとした背に、声が掛けられた。
「必要ありませんよ」
「…大哥!」
江崎は、既に同胞だ。
彼が此処に現れてから、まだ1年も経ってはいないけれど、江崎の働きは劉よりも誰よりも、部下たちがよくよく知っている。大哥(兄貴)と、地位の義理ではなく、尊敬の意を込めて呼んでも良いと認めたからこそそう呼んでいる男を、まるで都合の良い女にするように暴力を振るったり、抱いたりする人間を容認できるわけがなかった。
憤る部下に軽く肩を竦めるだけで返し、江崎はソファーに腰を下ろす。
「追ってどうするンです。埋めるか沈めるかするつもりでしょう? 止しなさい」
顔を拭いていたハンカチで、口の中を拭っている。切れているのだろう。
追わせて貰えないなら手当てが先だ。常備している薬箱を棚から取り出す。
「………」
憮然。
そうとしか表現できない表情で薬箱を開ける部下に苦笑する。
「あの人は、『4人目』になれる人なンです」
江崎の言う4人目といえば、例の卓に決まっていた。水と血と唾液に濡れたハンカチをテーブルに放った江崎が唇を歪めて笑った。
「そんな人を手の届く場所に置いておけるなら、なんだってします。何も惜しくなどありません」
拳を握り締める江崎を見て、思い出す。
後堂が現れる前からずっと、江崎は4人目を探していた。
勝負の卓に引っ張り出す為に、様々なものを投げ打った。
金、プライド、肉体。彼らの望むものなら何でもかんでも。
やっと眼鏡に叶った後堂が現れたことで、それは終わるのかと、暗黙のうちに部下たちは考えていたのだけれど、そうではなかったらしい。
「……済みません、大哥」
搾るように吐き出した部下に、江崎はいつもの笑みを向けてみせる。
「心配かけちゃって、謝るのはこっちの方です。部下に恵まれて幸せ者ですねェ、私」
「…ッ」
「湿布、まだありました? 自分では見えないので貼っちゃって下さい」
見えるも見えないも、鏡を使えばそれで済む話だろう、とは返さない。
「はい。…失礼します」
湿布のフィルムを剥しながら、ふと浮かんだ感情に首を横に振った。
この痕を付けて許されるのが、己だったら良かったのに、等と。
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