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いわゆる裏的な
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Posted by - 2025.04.07,Mon
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Posted by 瑞肴 - 2009.10.12,Mon




オリジナルもの。
此処に仮アップ








ごとんと、首が落ちた。
無心にそれを食んでいた娘は顔を上げる。
落ちた首は首らしい形もしていなかったが、それは確かに首であり頭であった。かつては月光のように輝いた毛皮は、この世の汚物すべて引っ被ったような深く冷たく汚らしい黒に染まり見る影もない。
娘はこの黒い獣に呼ばれた気がしていた。
以前一度、見かけたときよりも、獣らしい形すら無くしかけていた黒い獣は、既に咆哮を上げるための発声の器官を失っていた。
便宜上「黒い獣」としてはいるが、其れは唯の黒い、塊。
黒い獣がピクリとも動かなくなり、娘はわずかに首を傾げる。しかしすぐ、残りを食べる作業に没頭し始める。
どちらかといえば母親の血が濃かったこの娘は、母親の一族が得手とする『相手の力を吸収』する力を継いでおり、その特性を伸ばしていけと現在の保護者に促された。
精神生命体である娘は本来、相手の力を吸収するにせよ、別段、肉体までは捕食しなくてもよい。
それでも娘は食むことを選んだ。
何故そうするのかと問うた保護者に、「したくない?」と娘は逆に問い返した。そこに主語やら何やらは抜けていたが、確かに相手が※※※※※ならば、自分もそうしたくなっただろう。保護者は納得して頷いた。娘は見境が無くなっているだけで、その行為は不自然なものではないとみなしたからだ。
食む彼女を見下ろしながら、ふと、彼は面白い仮説に行き当たった。
己を「この世」から消し飛ばすのは、あの流浪の旅人だろうと考えていたけれど、もしかすれば、あの旅人と再び見(まみ)える前に、己はこの娘に食われているかもしれない。
娘の執着は、狂気というよりは狂いだった。
いまのこの娘に牙を剥かれて、叩き伏せられる確信は無い。
彼は笑う。
そうやって何もかも貪り食っていけば良い。かつて何処だかの世界では、一匹の狼が主神や世界を食らい尽くしたという、その狼にでも成れば良い。
人を食い獣を食い世界を食ったら、この娘の腹の中で、星と同化してしまったあの愛しい堕天と交じり合えるかもしれない。
彼は笑った。もう一度。
馬鹿ばかしい。食っても満たされるわけではないのだ。何を食ったとて、食いたいものを食えずに満たされるはずもないのだ。娘も解っているだろうに、それでも食うしか心を埋める術が無くなったのだ。そこで哀れに貪られる、黒い獣と同じように。
「…今度もまた、食っても腹から出てくるかもしれんぞ?」
前回は、こうして食らったは良いものの、娘の腹の中で自我を取り戻した黒い獣が、産声ならぬ咆哮をあげながら肉を割って飛び出してきた。
「今度はだいじょーぶだもん!!」
無論、その言葉に根拠は無い。
やれやれと肩を竦めた彼は娘の隣に立ち並び、娘の額にまで飛んだ体液の飛沫を戯れに指で拭ってやった。口元の血塗れはもう、拭うとか拭わないとかいう問題ではなくなっているので、放っておく。
今度はどの世界を食いにいこうか。





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