いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2009.10.09,Fri
「ぼくのかんがえたさいきょうじゅもん」 ならぬ 「わたしのかんがえたあかわしかんきん」
やはりこの男は馬鹿だと思った。
人間として、できて当然の思考ができない。
こんな広い屋敷に鷲巣ひとり放り込んで、そのたったひとりで屋敷を管理しきれると思っていたのか。
「貴様は馬鹿だ」
思ったままを吐き捨てる。
「……?」
アカギが首をかしげている。
「その無駄に明瞭な頭を働かせて、わしの屋敷を思い出せ。此れほど埃がそこかしこに積もっておったか? 窓が薄暗く汚れておったか? シーツもタオルも、毎日新しいものが置かれていたじゃろうが」
まるで物覚えの悪い子供の思考を待つように、鷲巣はしばらくの時間をアカギに与える。
アカギが馬鹿なのは分かっているし、同時に、異常に物覚えが良いのも分かっているから。
「…ああ」
アカギの目が焦点をあわせる。
「そうだったな」
やっと思い出したというように。
「アカギ」
「 ? 」
寝台から身を起しながら枯れた手を伸ばす。
すぐに傍に寄ったアカギが背中を支え、ヂャラヂャラと音をたてながら鷲巣は寝台に腰掛ける格好をとった。
「都心のホテルの、最上階を1フロア借りろ」
「……」
「フロアが判らんか、無知め。最上階ごと借り切れと言っておる」
まだ、アカギは黙って聞いている。
「こんな屋敷一つよりも、そちらの方が効率が良い。一部屋汚れたら、別の部屋を使えば良いし、使い切ったら清掃の者を呼びつければ事が済む」
「…都心のホテルって、何処?」
亀裂の笑み。
「わしが選んでやる。車を寄越せ」
アカギが運ぶ食料しか口に出来ていない鷲巣の顔の皺は深い。
物理的に、アカギが鷲巣を御することは容易い。
しかしそれがなんだというのか。
恐らく、身体的にどれ程弱っても、鷲巣は折れない。肉の苛みに心まで犯されるような処女ではない、この老獪な蛇は。
アカギがそんな、”わかりやすい勝利”に傾いたなら、一気にアカギへの興味も執着も手放すだろう。己が価値無しと判断下したものに意識を向け続けるほど、鷲巣の心は広くない。
そうしてアカギがそれをも無視して鷲巣を屈服させ続けたなら、アカギを赤木しげるではなく、何処にでもいる有象無象と認識するだろう。
それでも良い、とはアカギは思えない。
見ろ。
俺を見ろ。
俺と同じ位置に立ったまま、俺を見ろ。
それは変わらない。あの暑い雨の夜からずっと。
「……服」
「あ゛?」
「ホテルに入るなら、服がいるだろう、アンタの。どのサイズを買えば良いんだ?」
ヂャラヂャラと、また音がする。同時に鷲巣の低い笑い声が。
否、鷲巣が身を折り笑い出した体の震えで鎖が鳴ったのだ。
「くふ、くふふっ…少しは頭が回るようになったのう」
もともと、この屋敷には服など用意されていなかった。そうして鷲巣が最初にここに着てきた服は、その最初の夜にすっかりアカギに汚されて着用できない状態。
仕方が無く、鷲巣はそれからずっとシーツだけを纏って過ごしていた。
テーブルの上に放り出されたペンをとる為に数歩進んだ鷲巣の足元に白いシーツが流れる。
結婚式の、花嫁のドレスの裾に見えなくもない。
ただしこの古蛇の花嫁の手に嵌まっているのは、結婚指輪ではなく拘束の為の手枷だったが。
「ほれ、これがサイズじゃ。…いまはこれより痩せておるだろうが、とりあえずその数字を店員に伝えて服を見繕ってこい」
白い紙に数字を書き込んだものをアカギに手渡すと、こくりと頷いた。
言葉は発さずにそのまま部屋を出たアカギを見送って、自分はまた寝台へと戻る。シーツは少し汚れていたが、鷲巣は自分でそれを交換する気はなかったし、今は別室へ移動してそこの寝台を使うという体力も持ち合わせてはいない。
横になると直ぐに眠気が襲い、鷲巣はゆっくりとまぶたを伏せた。
アカギが直ぐに帰ってくるのを知っているから。
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