いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.11.12,Fri
これで終り。ぴっしぶに載せる際には少し修正するかも。
うちの大谷さんの歪み無いデレなさっぷりには梃子摺らされます。
あと官兵衛さんは良い男だと思います。
うちの大谷さんの歪み無いデレなさっぷりには梃子摺らされます。
あと官兵衛さんは良い男だと思います。
数日とはいえ、共に旅をすれば伺えることもある。
馬に乗り続ける行為は体力を消耗するが、大谷は数日の行程だけで随分と疲れが溜まった様子だった。
無論、あからさまな、分かり易いものではない。それでも所作の端々に滲み出る。
昔からの大谷を知っている黒田だから気付いたということもあるだろう。
そうして、海を越え目的の地に到着した日、吐いたのが夕暮れ時だったからという理由だけでもなかろうが、黒田が手配させたのはまず酒だった。
「太閤の目が届かぬとはいえ、早速これとは恐れ入る」
顎だけでなく心の臓にも毛でも生えていやるかと、さらりと嫌味を述べてからだが、大谷は早々宿から姿を消した。
今までにも幾度もこの地を訪れている大谷は、簡素ながらもこの地に別邸を所持していた。滞在中はそこに宿泊するという。
最低限の供だけ連れて邸へ移動し、身辺を整え、必要な報告もろもろを済ませてやれと息をつけば、やはり黒田が現れた。
足音を立て、勝手に…ではない、一応従者を懐柔はしたようだ、がしかしとにかく無遠慮に邸へ上がりこんでくる、気配が近付いてくる。
大谷は本日二度目の息を吐いた。
そうだろうと思ってはいた。黒田は、あれは何も考えていないように見せて様々を縦横に考えることが出来る男。だから両兵衛などと呼ばわれていたのだ。
宿につくなり部下に酒を振舞ったのも、これからの士気を高めるためや、騒ぎの間に宿を抜け出して大谷のもとを訪れる機会を作るため、話の通じる上という印象を与えるため、そのような色々の思惑を混じらせての行動。
惜しい、と大谷は思う。
ひとに仕えることに遣り甲斐とよろこびを見出す男ならば、良かったのに。そうではない、黒田官兵衛はそうではない。
「まだ起きてるだろうな?」
「やれ…、訪ねて来ておいてからそれはなかろ」
黒田の後をついてきた従者を、よいよいと下がらせる。
これもまた計算のうちではあったが、着いたその日とはまったくこの男はせっかちだ。それで何度下らぬ失敗をした、と言ってやりたい。
ぬけぬけと部屋に入り込んだ黒田は、半升は入りそうな徳利を畳へ置いた。土産らしい。大谷は酒は(あまり呑むと体温が上がって皮膚に痒みが出るので)多くは口に出来ないが慣れたもので、先程まで白湯をいれていた湯呑をあけると徳利の傍へと差し出した。黒田は、これもまた持参した猪口を取り出し、双方へと透明の液体を注いでいく。
暫し、言葉も交わさずただ酒を口元へ運ぶ。
いっそこのまま時間が過ぎればと、思わないでもない。
そうはいくまい。
大谷は僅かに口端を歪める。吊り上げる。
大概頑固者よな、誰もカレモ。
「大谷」
「なんぞ、官兵衛殿」
昔々、官兵衛に戯れに剣術の稽古をつけられたときのことを思い出す。
木刀の先が触れ合う、あの緊張と昂揚、それに似た、感覚。
「お前さんは聡い。いつまで其処に居るつもりだ」
「…三成の居る所が、我の居る所よ」
何気なく零された言葉に、何気なく返す。
黒田は沈黙に戻ると、また酒を呑み始めた。
大谷も、珍しく杯をあけると空になったそれを差し出す。黙ったままの黒田が二杯目を注いだ。
「官兵衛殿」
「なんだ、大谷」
二杯目を半分まであけて、乾いた唇を舐める。ひりひりと、酒の刺激が唇と舌を軽く焼いた。
ぽつりぽつり、他愛もない話をする。
仕事の話も豊臣の話も兵法についての話も、大谷と黒田にしては珍しいことに、三成の話もしない。堺で何が流行っているかだとか、敦賀の領地でのことだとか、記憶にも残らないだろう小さなことばかりを、灯が揺れる部屋でゆるゆると語りあう。
最後に注いだ猪口の中身が無くなると、黒田は就寝の挨拶を述べて立ち上がり障子を開ける。
「邪魔したな」
「もう遅い。…部屋を用意させる故、泊まっていきやれ」
「ああ、ならそうさせて貰うとするか」
来たときとは正反対の、静かな、足音すら立てぬ所作で出て行った。
「ばかんべえめ」
足音が聞こえなくなってから、ひっそりと呟かれた掠れた声は、蝋燭の灯を揺らすことすらないほど細い。
寝所にて、瞼だけ伏せていた黒田は静かに開かれた障子の気配に薄目を開ける。
目玉だけ動かしそちらを見れば、白い着物姿の大谷がひっそりと部屋へ入り、後ろ手に障子を閉めるのが見えた。
やはり痩せた。包帯に巻かれた手足、首、顔。
先程は頭巾を被っていたが、いまは包帯で雑に巻かれた頭部の形が露になっている。ざんばらに切られた髪に、ただの人として黒田は心を痛めた。あれはかつて美しい黒髪だった。三成と並べば陽光の下、月光の下、黒と白銀がしゃらしゃらときらきらと、大層目を奪うモノだった。
畳に膝をついた大谷の指が、黒田の前髪に触れる。
ゆるりと視線が絡まった。
「…大谷」
その金の眼を見れば、もう遅いことは判っていた。わかっていたが、黒田は足掻きたかったのだ。
「お前さんなら、三成を引っ張れる」
「……」
大谷の、筋肉の落ちた腕が黒田の首へと回される。
「小生のもとへ来い、豊臣はいかん、力は力に潰される」
「………ヒッ」
やはり。
駄目だった。わかっていた。もう遅い。大谷は決めてしまっている。そして黒田にも譲れない。
首の裏から引っ掛けられそうになった小刀を、大谷の体を突き飛ばすことで避ける。
「ヒヒッ、ヒッヒヒヒヒヒ、ようやっとホンネを吐きやったなァ、黒田ァ…!」
転がり、柱に背を打ちつけながら大谷が笑う。
上掛けをはね退け立ち上がった黒田が、枕元に置いていた太刀を手に取る。
障子の枠も張られた紙も知ったことかと、念珠がそれらを突き破り大谷の周囲を飛び回る。
「逆臣・黒田官兵衛、ぬしは我が処断せり!」
「っ…」
弧を描き珠が打ち付けられる。刃で受けては刃こぼれしてしまう。側面で受けて、叩き落すのではなく、流す。太刀を抜いた鞘をもう片手に、腹を狙ってきた珠をこちらは力任せに叩き付ける。
黒田が珠とやりあっている間に、幾度か咳き込みながら大谷は体を起こし、柱に身を押し付けながら立ち上がった。
床を抜き、襖を抜き、縦横無尽に動く様はしなる鞭のような動きに似てはいる。ただし、当たれば肉が裂けるのでなく、骨ごと砕ける羽目になるだろうが。
「っらぁあああ!!」
体を引き摺るように、廊下から、そのまま庭に引く大谷を追う。
意外に、この珠の動きには一定性がある。八つもある珠をそれぞれ別個に動かすのは不可能なのだろう、否、そこまで出来れば正真の化物だ。
吼える黒田に目を奪われたのは一瞬。
しかし後ろへと進もうとした踵は地の凹みに引っ掛かり、すとんと大谷は腰を落とした。
頬を掠った珠に、黒田の太刀は大谷の眼前で薙ぎ払われる、が、返す刃は細い首筋を狙う。包帯の巻かれた指が、庭の土を掻き強く握り締められるのが見えた。
細い小太刀をつき立てようとした、指。槍捌きも剣筋も、見事なものであったというのに、もう小太刀しか扱えぬのかと、舞い踊る珠に囲まれながら思う。
「…大、谷、!」
これもまた一瞬。
珠は容赦なく黒田のわき腹へとめり込まされる。
「がはっ!!」
あっけないほど細い音が体の中から聞こえた。折れた。意識がそれを認識する。
「我を哀れんだな黒田」
足元から聞こえてきた声、否、声ではない、それは呪詛であったのだろう。
「我が身を病身と虚仮にするか!! 許さぬ、ゆるさぬ、許さんぞ黒田ぁあああ!!!」
それは悲鳴であったのだろう。
珠は一斉に黒田に襲い掛かる。
四方八方からの打撃に、堪らず蹲り、腕で頭を匿い、伏せる形で腹を守る。
これほどに大谷が激昂したところは、見たことがなかった。
病を発症し、人を遠ざけ人に遠ざけられ、陰口を叩かれ足を引っ張られても、怒りを発露するのは大谷本人ではなく三成だった。
大谷は何かを喚き散らしているが、殴打の音で聞き取れない。
「(違う)」
「……くろだ、くろだ、ぬしもそうおもうのか、われはいえぬ、われはなおらぬ、われも逝くのか、あれをのこして逝かねばならぬのか、半兵衛様の、ように」
声は次第に小さくなっていく。共に、珠の殴打は緩やかになる。しかし打撃を受け続けた黒田の意識は薄れていく。
秀吉公も、石田三成も居ない地で、企みよりも泣かせてやればよかったのかと。
しかし互いにそれは出来ない武将としてしか生きられはしないのだと、そんなことを最後の意識の欠片で考える。
頬に、ぽつりと水滴が落ちた。
意識を取り戻した黒田が転がされていたのは、かろうじて牢ではないが穴倉だった。
頭を振って起き上がろうとすると、両腕が引っ張られる感覚。ついでに、わき腹が傷む。確か折れた音がしたなと思えば、そちらは丁寧に処置が施されていた。しかしこれは。
「枷… …って、なんじゃこりゃぁあああ!?」
想定外の巨大な鉄球が、手枷から伸びる鎖の先に。
デカい。いくらなんでもデカ過ぎる。悪意以外の何も感じ取れない。
「ようよう寝こけておったナァ」
「大谷…!」
杖をつき、白頭巾に白装束の大谷が、閉じられた格子扉の向こうに見える。
「馴れ馴れしいぞ、逆臣よ。『大谷刑部少輔殿』とでも呼びやれ?」
「ぬぬ…」
距離がある上、頭巾まで被られては表情は読み取れない。
「いや、まだ、ぬしは豊臣の臣下扱いであるがな。暫くそこで頭を冷やすがよかろ。…豊臣の天下が磐石のものとなれば、そうなってからであれば其処から出してやろ」
それでは遅い。
吼えかけた黒田が、かろうじて押し止める。
代わりにゴクリと動いた喉を見抜いたか、大谷は引き攣った笑い声を穴倉に響かせた。
「それまでは、この地の獄で這いずり廻っておれ。その鉄の玉を引き摺ってなァ。嬉しかろ、我と揃いよ。我には自由を、ぬしには不自由を与えるタマよ」
大谷が背を向けかける。
引き止めるにはこの単語しかない。黒田はその一言を吐き出した。
「三成は」
「黙れ」
てき面、大谷は体の向きを変え、黒田を正面から見据えた。
後はもう言葉を投げ続けるしかない。
「お前さんがどうしようと、そのときは来る時ゃくる!」
「黙れ」
「そのとき三成がどうなるか」
「黙れ、――豊臣の子でないぬしに何が、」
唐突に、大谷は言葉を区切った。
強張っていた白に包まれた肩が、僅かに落ちる。大きく息を吐いたような気配がした。
「ヒッ…、我としたことが、ぬしに乗せられた。…もうよかろ、我はゆく」
こつん。
杖を突く音が響いた。大谷は黒田に背を向けると歩き出す。
「おい、待てっ!」
もう応えない。ただ、こつりこつりと杖の音ばかりが遠ざかる。
土の匂いを鼻の奥にまで感じながら、暗いそこを歩く。
ようよう疲れた。
しかし九州での仕事はまだこれから。
外界に出た大谷が、暗い目で月を見上げた。
三成も、この月を見ているであろうか。
数十日後、大阪に戻った大谷は報告を済ませてからやっと久々の自邸に戻った。体は泥のように重い。忌々しさに目を細めていた大谷の耳に、自分を呼ぶ声が飛び込んだ。ではなく。
「刑部っ」
声どころか、体が飛び込んできた。
体勢を崩しかけた大谷の背と腕を抱えて支えた三成は、すまないと、恥じらいを浮べながら謝罪する。
「昼に、貴様が今日戻ると伝令を聞き、待たせて貰った」
「つむじ風かと思うたわ。…我は無事帰ったぞ、三成」
気が緩み、そのまま崩れ落ちそうになった足を叱咤し、奥の自室までゆるりと歩く。三成も隣を歩く。
「当然だ」
「さよか。ヒヒ、ぬしには敵わぬ」
やっと辿り着いた部屋、息を吐くことすら億劫になりながら、崩れ落ちるように座す。どうにも部屋の空気が居心地が良いと思ったら、三成はここで帰りを待っていたようだ。まったくこの男はいつもいつも、しようがない。客間を使わぬ客人などとそう聞かない。
しかしまあ、既に布団まで敷いてあるとは。
恐らく、これを敷いたのは三成だ。物証はないが、確信ならばてんこ盛りに存在する。被っていた頭巾をそこらへ放り投げ、三成へと体を向けた。
「三成」
両腕を伸ばせば、すぐさま体が寄り添われた。座したままに互いを抱き締める。
大谷は両の瞼を伏せた。
伸ばした腕に力を込めると、三成の手が慈しむよう愛しむよう、大谷の頭と髪を何度も撫でる。
これで良いと、大谷は思う。
「みつなり、ぬしも、よう戻った」
そういえば、というような顔をしたのだろう。気配でわかる。大谷が引き攣った笑い声をあげるので、もごもごと言葉を詰まらせている。
「…当然だ」
結局吐き出されたのはそんな言葉で、抱き締められている大谷の喉はまだ震える。
「刑部!」
「すまぬ、すまぬ」
天下などいらぬ、野望など無い、唯この男と共に在れれば、それでよい。
この地を出立して、戻り、初めてやっと大谷は体からすべての力を抜いた。三成の腕にすべてを預けて。
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