いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.11.23,Tue
戦国BASARA/SS 大谷さんと片倉さん。
うちの大谷さんはなんというか、策士とか軍師とかさておいて
普通に性格が悪いんだと思う。
うちの大谷さんはなんというか、策士とか軍師とかさておいて
普通に性格が悪いんだと思う。
予感と確信を胸に抱きながら、片倉小十郎は馬で山中を駆けていた。
後に、小田原攻めと呼ばわれる役の最中のことである。
現時点で最も警戒すべき石田三成は本陣を中心に置いて戦場(いくさば)を駆け巡っている。これは当然だ。単騎の戦力が突出して高い石田三成だが、将でもある。将は軍という群れを動かさなければならないのだから、本陣をもぬけにしておくわけにはいかない。
常識的に考えれば、だ。
その男が、本陣に長く身を止めている様子がないと黒脛巾(くろはばき)からの報告があった。
しかして石田の軍は、事細かに此方の情勢に合わせて討ち入ってくる。
本陣と見えるものは傀儡か。
しかし、兵は確かにその「本陣」を石田三成の本陣として動いてもいる。石田の兵たちの拠点はまったく「そこ」なのだ。
思うところがあり、小十郎はたち上がった。
石田三成には有能な部下も数人居るが、気に掛かるのはそちらではない。豊臣秀吉の軍の中で、石田と同じくの将でありながら、まるで石田の補佐、軍師であるかのように采配振るう男が居ることを黒脛巾からの報告で知っていたからである。
男の名は大谷吉継。
石田を調べれば、それなりに、いくらでも、取るに足らない情報であれ出てはくる。が、反対に大谷については、病身であるということ以外にほとんど情報が出てこない。
秀吉に重用されているというのは真実で、病の面倒を見ながらでも仕事をこなせるようにとの配慮から、あまり表に出されずに内々に動いている男らしかった。
つまり何かというのなら
此度の戦において未だ姿を見せていない大谷が座する陣が何処かに存在し、石田自身はそこを拠点にしているのではないか、そこから得る情報と与えられる策で軍を動かしているのではないかと、小十郎は推測したのである。
石田が動いたという路を追う。神速の男を追うのは忍すら難しかったらしいが、それが彼らの任務だ、やり遂げて貰わなければ話にならない。
何度木々を潜り抜け獣道まで抜けたことか、茂る葉の合間に見えた僅かな白。
それは布の色だった。陣を囲う為の、幕の色。
音を立てぬよう馬から降り、木の陰に隠れながら接近する。幕は紋所は対い蝶。しかとそれを確認して鯉口に指を掛け息を潜めれば、幕の内側から「殿」と呼ぶ声が聞こえてきた。そうして、それに応える声も。
人の気配は多くは無い、陣も、簡易のもののように見えた。たえず移動を繰り返しているのだろう。
引き返し、体勢を整えて急襲するか。しかしそれではまたこれを見つけるのに手間が掛かる。
僥倖か泥縄か、どちらというべきか。
このとき小十郎は恐らく焦っていたのだ。この戦が始まってからずっと、胸の奥に潜ませていた予感と疑念で。
名乗りをあげながら幕を叩き切ると、読み通り中に居た者共はあわせても十人に満たない程度。
これならば。
視線を奥へと飛ばせば、白い頭巾を被る白装束の男。
甲冑すら兜すら身に付けていない。いかに陣の中とはいえ、まだ陽も暮れていない時間帯に。戦場においては異様な姿であった。
が、存在感。
この陣内において最も存在感を放っているのはその男でもあった。
「大谷吉継ッ…!!」
恫喝に近い形で名を呼べば、座していた大谷の手が伸びる。
否、手が伸びたのではない、大谷は座した体勢のまま、這った。
先にあるのは御輿のようで、この男は自力で歩けもしないのだろう。武具を身に付けていないのもそれ故にかと納得はする。
大谷の周囲に兵が駆け寄り、御輿を担ごうとする者と、小十郎との間にも割って入る者と、それぞれの役目でもって臨戦態勢はすぐさま敷かれた。
小十郎の唇から、短く呼気が吐かれる。
先ずは、間に割って入った者たちへ、抜刀。
下から上へと切り上げる。
起こった剣圧によろけた相手の体を肘で殴り飛ばし、そうして上げた腕から切り落とす。殴り飛ばされた兵は他の兵にぶつかり、将棋倒しのようにもんどりうって崩れ落ちた。
「やれ…、」
そのまま巻き込まれ餌食になるかと思われた大谷は、御輿の上にあった采配を手に取ると振り下ろされた刀の前へと翳し、刃が触れた刹那に横へ薙ぐ。その間に横から兵に槍で突かれた小十郎は、踏み出した一歩に体重を乗せると重心を踵へ乗せ、数歩うしろへと跳び退った。
「ご挨拶よな、竜の右目。蟲のように這うしか出来ぬ我に無体をしやるわ」
がらん。
金属が地に落ちる音がする。大谷の手から采配が落ちた音だった。よくぞ一撃を片手で受け流したものだと感嘆したが、やはり流石に痺れたらしい。再び采配へと手を伸ばすわけではなく小十郎を見上げてくる。
動けない者を屠る憐憫は、小十郎は持ち合わせてはいなかった。智もまた凶器。戦場において武器を携えるものに手心を加える理由はない。
「抗えぬ身で戦場へ出たテメェの責だ!」
少しの距離を取ったのを確認してから、片足を引き刀を脇の位置にまで上げ大谷へ向けて切っ先を構える。
突きの構えを取った小十郎から迸る覇気にか、兵たちはじわりと後ずさった。
「はぁっ!!」
強靭な脚力は一気に距離を詰める。弓の弦のように引き絞られた腕の筋肉が、直線を描いて前へ、大谷の喉元狙って放たれた。
「―――ヒ、」
刃先が喉を突こうと空を切る。
そのとき、大谷の喉から漏れた空気は笑い声。
膝を限界まで深く折り、低い位置から突きを放とうと体勢を変えたのは小十郎の歴戦で染み付いた勘からだ。
空気を裂く太い音がして、今まで小十郎の頭があった位置に左右から、人の頭程度の大きさの球体が驚くべき速度で交差する。
そして突き出されまさに大谷の腹を突き破らんとした刃は、真下から急浮上した珠に、上へと弾き上げられた。
「何ッ?!」
刃が毀れる嫌な音が耳に届く。
退け。肉体は脳にそう指令した。
このまま、上体を捻り大谷に頭突きのひとつでも叩き込んでやることは可能だった。が、小十郎は腹に息を込め、驚異的な腹筋の力に任せて上体を持ち上げ横へと回転し踊るようにくるりくるりと大谷から距離を取った。
頭上に浮遊していた珠が小十郎へ向けて急降下する。ひとつ、ふたつ。
退きざまそれを避けるものの、最後のひとつが肩に入る。左肩。
骨の芯が痺れる痛みに襲われたが、五指に力を込めかろうじて刀を取り落とすという失態は免れる。大谷の兵が引いたのは小十郎の覇気にあてられたからではない、この珠の巻き添えを避けるためだとそこで気付いた。
「ヒヒッ、ヒッ…」
そうして改めて見遣った大谷の周囲には、幾つもの珠が浮遊していた。
それが何で、どうなっているのかは全く分からない。
分からないが、あれはどうやら大谷の意思で動く大谷の武器であるのは確実だった。詰めるべきか、更に退くべきか。槍よりも余程長さはあろう。銃よりも融通の利きそうな武器でもある。
どう対処するか、駆け巡る思考を嘲笑する音が場に満ちた。
「ヒィッヒッヒッヒヒ、ヒィーッヒヒヒヒャヒャ、謀った、タバカッタァ…! やれ三成に叱られる…ヒヒッ、謀り嫌いの三成に叱られてしまう…ヒッヒヒヒ…」
ひとつ、己の間近に寄った珠を、大谷はさも愛しそうに掌の上に浮かせて撫でた。
「―――ぬしがこうも簡単に騙されてくれたお陰でなァ」
耳障りな引き笑いの中でなお聞こえた音は、緒の切れた音だったのだと思う。
小十郎が次に明瞭な意識を取り戻したのは、自陣の中のことであった。
寝かされていたので起き上がろうとするが、左腕に力をかけた途端に鈍痛が走る。
頭を横に向ければ、強く布が巻かれていた。そうだ、肩にあの珠が当たった。痛みを感じるということは、生きて腕は繋がっているということだ。既に最悪ではあるが、最低の状態ではないらしいと奥歯を噛み締める。
あれの後は酷いものだった。珠が浮くなら御輿も浮くと、それくらいの発想に至れなかったかと悔やむ己に自己弁護など付けてやる気もおきない。全身に珠の殴打を受け、一部肉を抉り取られながら嘶く馬をなんとかいなし、大谷の陣に背を向けたのだ。
憤りのあまり、握り締めすぎた拳の掌の皮が破れる。
大谷吉継、その名は忘れない。次にまみえたときには、必ずや。
石田三成が右目を伴わず現れた伊達政宗を打ち破ったのは、その数日後のことであった。
PR
Comments
Post a Comment
カレンダー
カテゴリー
最新コメント
[01/18 スーパーコピー バッグ 口コミ]
[01/16 スーパーコピーブランド財布N級品]
[11/06 シャネルスーパーコピー]
[10/20 ブランドバッグ・ブランド財布N級品販売通販]
[02/11 瑞肴]
最新トラックバック
プロフィール
ブログ内検索
最古記事
アクセス解析
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
Powered by "Samurai Factory"