いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.12.07,Tue
ついでとばかりに、勢いのあるときに書いてしまえ。
むこうぶち妖怪パラレルSS。拍手ぱちぱちありがとうございます。
今回のはビミョウにグロかもしれません。
日蔭さんと江崎さんは、現代から逆算すると、100~150年くらいの付き合い。
むこうぶち妖怪パラレルSS。拍手ぱちぱちありがとうございます。
今回のはビミョウにグロかもしれません。
日蔭さんと江崎さんは、現代から逆算すると、100~150年くらいの付き合い。
『おなかがすきました』
間抜けな一言が電話から漏れ、日蔭は眉を顰めた。
どうして、自分が今泊まっているホテルを突き止めたかはもう考えまい。自分が部屋に戻った途端に取り次がれた電話についても深く考えまい。
「何処だ」
『前から移動してません』
ということは、あのマンションか。
数ヶ月前に一度だけ訪れた、事務所なんだか塒(ねぐら)なんだかというマンションの一室。
もう良いオトナなのだから、放っておいても構わないのだが、しかし声は憔悴しきっている。その上、ふて腐れてもいるようだ。頼りたくなどなかったのだろう。なら電話するなと、言いたい。
「そこで待っていろ」
『…はい』
受話器を置くと、一度脱いだ上着を羽織りなおした。
「不便な世の中になったな」
ぼそりと呟き、ホテルを出るとタクシーを捜す。
すぐに拾えたタクシーにマンションの住所を告げると、軽く目を伏せる。本当に不便な世の中になったものだ。なんでもかんでも片付けられる。綺麗に。おかげで江崎の食事には少し手間がかかる。
昔に比べての話だが。
支払いを済ませタクシーを降り、マンションの玄関ホールを通ってエレベーター。
階数のボタンを連打したところで気付いた。どうやら自分は急いでいるらしい。馬鹿らしい。1日2日、放置したところで死ぬわけでもないというのに。
目当ての部屋の玄関ドア、ひとまずドアノブを捻って引くと、あっけなくドアは大きく開いた。
中からドロリと重い空気が溢れ出す。
敏感な者なら勘付く程度の空気の濃さ。それは困るのでドアを閉め、用心のついでに鍵もかける。
奥の、リビング(のような部屋)に、それは居た。
どろどろとした、不定形の黒い塊。
塊のそこらじゅうに発生した口、そこに生える牙が何度も噛み合わされている。
「おい」
かちかちかちかちぎちぎちぎちぎちぎち。
物欲しそうな口が日蔭のスラックスの裾を噛むが、甘噛み程度。気にするほどでもないので視線を巡らし状況把握に励んでみれば、床に電話の受話器が転がっていた。
「……」
通話後に意識が飛んだらしい。
何をやってるんだと怒鳴りたいが、それをするなら意識を戻してやるのが先だ。日蔭は、転がしてきた旅行用トランクの蓋を開ける。
中には糸。
糸の塊。
繭、ともいう。
無造作に中に詰め込まれていたそれを転がし出して、黒い塊へと与えてやれば、無数の口は一斉にソレに食いついた。
細い糸で出来た繭はあっという間に食い破られ、中から血の気の無い人間が一体現れた。それにこそ、嬉々と、牙は食らいつく。
することの無くなった日蔭はそこから目を離し、上着を脱いでその辺に放置。風呂場へ移動すると水が出ることとガスが点くのを確認。湯船に栓をすると、中に温かい湯を溜めはじめた。
そうしてリビングに戻れば、狗が鈍い音を立てながら骨を咀嚼している最中で。
ソファーに座り頬杖をつき、見るともなしにそれを眺める。思えば江崎の食事が何か、自覚させたのも自分であった。
あのときも江崎は間抜けな台詞を吐いていた。『お腹が膨れないんです』だとかなんだとか。ちゃんと食事はとっているのかと聞けば、はいと答えられ、そういう意味じゃないと怒ると、何をいっているのか分からないというよう首を傾げられた。
当時の江崎は、本当に知らなかったのだ。
妖の食事には種類があること。
いわゆる「普通の食事」以外に、個々の個性にあった食事を取らなければ徐々に弱って動けなくなること。
ごきゅん。
大きな飲み下す音がして、狗ならぬ江崎は顔を上げた。日蔭もつられて、思考を区切るとそちらを見遣る。
「ごちそうさまでした」
「貸しだ。覚えておけ」
笑っている。
俺も笑いたい。日蔭は思った。
日蔭にとってはまったくなんら必要の無いものだというのに、腐らないよう繭に包んで、トランクに詰めて保管していたのだから。
理由はひとつ。これが江崎の食事であるから。
(にんげんでした)
かつて、たべものを、自覚し、見つけた江崎は暗い部屋、相変わらずの笑みを浮べたままそう云った。
(生きていても、死んでいても、どちらでも良いみたいです)
笑う江崎の目は、細すぎて見えなかった。
昔は良かった。死体も生餌も、適当に見繕えた。
現代はそうはいかない。それなりに用意するか、選ぶかをしなければ、面倒くさいことになる。江崎の属する組織の中ではそれは見つけ易いのだろうが、与えられるモノは江崎にとって借りでしかない。
そんなこんなで、何故か、何故なのか、日蔭がこのように、保存食を。
「…………」
毎度用意してやっているのだ。決して楽な仕事ではないというのに。
苦虫を噛み潰した表情の日蔭の機嫌を伺うように、江崎は日蔭の肩に額を寄せた
。まるで犬がするように。
「すみません、助かりました」
「生臭い、風呂に入れ」
「はい」
素直に頷き風呂場へ向かうのを確認してから、空になったトランクを閉める。
「日蔭さん」
「っ!! …なんだ」
風呂に入ってしまったと思っていたので驚いた。
「ありがとうございます」
「……」
風呂場のドアが閉まる音を今度こそ確認してから、特大の溜息。
また、このトランクに要らないものを詰め込む気になってしまった。
ああ、くそ、馬鹿は誰だ、俺か。
ごしゃごしゃと頭を抱えるけれど、解決にはならず。
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