それは心の折れる音

むこうぶちの俳優パロＳＳ。判る人にしか判らないネタの出所。でもまあ読めはするかと。
こっちではまだ特にカップリングはありません。今のところ。

事務所に戻ると、満面の笑みで迎えられた。

とはいえ、相手は常に笑顔なので、どこがいつもと違うかというと　雰囲気　としか説明は出来ないのだけれど。

「なんだ？　随分上機嫌だな」

落とし穴がありそうで気持ち悪い。

「見てください日蔭さん！　ポッキーを頂いたんですよ」
「はあ？」

意味が分からない。

ドニッ　とソファーに置かれた手提げの紙袋の中には、ダースでパッケージされたポッキーが鮨詰め状態。

「ＣＭ撮影で貰ったンだそうで、配っても配っても無くならないからって、私の所にも持ってきて下さいまして」
「ああ…」

それなら、わからなくはない。
しかし商品名を見るに、随分大手の菓子会社だ。此処のＣＭを受けられるようなタレントと江崎が交流があったとは…とまで考えて、気付く。

「あかぎしげる」

何故だかポッキーのＣＭに、そういえば出ていた。
若い方と、更に若い方と、中年と。

「ああ、そうですヨ、歳食ってる方で」

ざわ・・・

異才、神域。勝手な二つ名をつけるなと、驕るわけでもなくウザったそうに言い放つ男の姿は一瞬で鮮明に思い起こせる。

「知り合いだったのか？」
「時々ご飯を奢っていただいてます」

ポッキーうまー。

箱を開けて中身を取り出し、幸せそうに齧っている江崎は澄ましたもので。というか、本当に特に思いいれは無いのだろう。よくもわるくも、この男は物怖じをしない。

「……………」

なんだろう、このモヤモヤ感。

「日蔭さんも食べてくださいね。たくさんありますから」
「あ、ああ…」

ぽきぽきと、ポッキーを齧っている姿を見下ろす。
なんだろう、この、モヤモヤとした。

「好きなんですよねぇ」
「好き…　……好き？！」
「はい、好きです、美味しくないですか？　ポッキー」
「ああ！！　いや、そう、…そうだな！　嫌いじゃない！」

口をついて出た言葉の意味など、特に無い。
その歳でまだポッキーが好きなのかと、そう問いたかったに違いない。

器用に１人で混乱状態の日蔭を、駄菓子を咥えた江崎は不思議そうに見上げるばかりであったという。