愛の歌

ちっと歴史が前後してますが、スルーしてくだせえ。
むこうぶちＳＳ。華僑組。無駄にいい声。

「引っこ抜かれて、あなただけについて行く
今日も運ぶ、戦う、増える、そして食べられる～」


何故。
何故ピクミン。

背後のデスクで何か作業しているらしい江崎が口ずさんでいる。
後堂も、歌のサビだけは知っていた。ＣＭでよく流されていたし、何より、何が気に入ったのだか江崎がよく口ずさむからだ。

短くは無い時間江崎と仕事をこなしてきて知ったのは、この男は案外、くだらない事や取るに足らない事を拾い上げる、という事実であった。

それは恐らく、心の余裕なのだろう。
江崎の心は基本的に空っぽで、何でも入るし何も入らない。
路上に落ちたハンカチを紳士的に拾い上げて、落としましたよと女性に声を掛けるのと同じ調子で、死刑宣告とさして変わらぬ仕事上の通告をしてみせたりする。

それはさておき。

「…気に入ったのは構いませんが、同じフレーズばかり繰り返さないで下さいますか。いっそちゃんと歌いきって下さい」

振り向いた後堂の意外な一言に、江崎は細い眼を驚きに僅かに見開く。

「スミマセン。ですが、ここまでしか知らないんですよねえ」
「………」

江崎のピクミンブームはその後暫く続き、いい加減何かが限界に達した後堂がＣＤを買って来てしまうのは、そう遠い未来では、ない。