いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.05.29,Sat
むこうぶちSS
…なんでしょうねこれは。えざうしに見えなくもないですが、ただの江崎さんSSという方が正しいですな。
パキポキ。音がする。
軽い音。小枝が折れるような音。
そんな軽やかな可愛らしい音を立てながら、江崎は受話器を肩と耳に挟んで会話していた。
「髭? デブ? 良いですヨ、そのままで。…髭もそのままで良いんです、そういうのがウケるんですから。ええはい、そっちで処理して下さって結構」
そうして、携帯のボタンを押して通話を終了。
帰宅間際。習慣で着用していたスーツのネクタイを少し緩めたところで、後堂は眼鏡の奥の細い目を更に細めた。
パキ、パキパキ。
「――…1つ、よろしいですか?」
「どうぞ」
ペキッ。
「何故、私もそうやって、 …飼ってしまわなかったんですか」
パキリ。
電話の内容のすべてを聞いていたわけではないが、わかる。
人身売買について、江崎は話していたのだろう。
暫く、江崎の下で”仕事”をしていて感じたことがある。江崎は”ひとでなし”だ。江崎にとってヒトの命も誇りも財産も、塵ほどの価値も意味も無い。自分の指示ひとつで人が人生から転げ落ちてもがき苦しむことになっても、ほんの僅かにだって心は動かない。
そんな江崎になら出来たはずだった。後堂の、人としての尊厳を握り潰して己の傀儡としてしか生き延びられないような環境下にまで、絡め堕とすこと、が。
咥えていたMen's ポッキーを揺らし、江崎は口を開いた。
「これは意外ですね。そういう趣味でいらっしゃった?」
「違います」
くくくくく。
椅子の背を抱えながら目を通していた書類を、デスクへ放り投げる。
「…”ウリ”に使わなかった理由ですか。フフ、私ァね、貴方のこと、好きなんです」
びくりと。神経質な様相の後堂の眉が引き攣った。
パキパキ、パキ。
ポッキーがすべて江崎の口の中へと収められる。
「だから、貴方に嫌われたくない。…これが理由になりませんか?」
よく見れば古傷だらけの江崎の長い指が、突っ立っている後堂の手を取った。そうして軽く、生白い指先に口付ける。
数秒、間抜けた顔をしていた後堂だけれど、すぐさまその手を振り払う。
「笑えない冗談です」
「――冗談に聞こえました?」
「~っ …付き合いきれません。失礼します」
嫌悪というよりは困惑を乗せた声音のまま、後堂は逃げるように部屋から退室してしまう。その感情がすぐさま嫌悪に向かわないところが、後堂らしいなと江崎は笑った。優しいわけではない。その真面目さ故に、人の性癖を理解しなければという思考が動くのだろう。
「ふふ、ふふふふふ」
性癖。
ごそごそ。
パキッパキパキポキ。
そんな生ぬるいものではなかった、あの場では。雄として、精巣をぶら下げているものの本能として、擦って吐き出して満足して。
パキ、ペキ。
潮と体臭で埋まる船の上、何度あの醜い棒を咥えたことだろう。上でも下でも。”それ”で生き延びられるなら、人の心理を操れるなら、なんだってした、なんでも出来た。
生きて戻って、もう一度あの卓に。もう一度あの面子で。牌を握るためならなんだって。
「まァ、”もう一度”では足りなかったワケですが」
パキリ。
折れない者は、逆境でより強くなる。それは肉体的にもそうであるし、精神的にもそうである。そうしてそれは、麻雀の打ち筋を、変える。江崎がまさにそうだった。
後堂に、そんなものは望んでいない。あれはあれのままで良い。きっかけを自ら与えるなどという愚を犯すつもりはない。後堂は、あくまで、江崎が傀と打つ為に必要な面子。江崎の思考、傀の思考、卓の流れを読み取り動ける男。
それ以上では、邪魔なのだ。
人鬼と対せないレベルでは困るが、江崎にとって殺しきれるレベルでなければ厄介。
「…貴方のことが好きだから、貴方に嫌われたくない。……本当ですよ? 後堂」
チョコレートがついて汚れた指を、舐める。
私が読みきれる貴方が好きで、傀とやり合える貴方に嫌われたくない。
空になったポッキーの箱をゴミ箱に投げ入れ、江崎は立ち上がった。
さあ、今宵は何処に贄を探しに行こう。
人鬼と己へ捧げる為の、生贄を。
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