いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2010.06.12,Sat
むこうぶちSS
日蔭さんと華僑の狗と。
日蔭さんと華僑の狗と。
関わってはいけない人種というものがある。
今までだって、それらを判別していたつもりではあったけれど旅打ちを始めてからその精度は更に上がっていた。
「(コイツは…)」
少し前までに、日蔭にむしられるだけむしられた男。
その男を捕まえにきたのであろう数人のスーツ姿に囲まれて、いま、トイレの個室から引きずり出されている。
「お騒がせして、済みません」
人当たりが良い、と言い切るには難のある笑顔。
スーツ姿たちの取りまとめ役なのだろう、自分は特に何をするでなく見守っていた男が口を開いた。
「身内のことでして、どうぞ皆様は気になさらずに」
それでも、この声。柔らかい、張りのある、しかし有無を言わせない声、それが雀荘に低く沈むと、途切れていた牌の音は少しずつ蘇ってきた。
まだ、あの男からの支払いが全て済んでいない。
いつもの日蔭なら、割って入った。しかし。
「(関わるな)」
冷たい、打算の理性が告げている。
はした金の回収よりも、勝負の最後のさいごのお楽しみ――相手を嬲ることを邪魔された憤慨よりも、先ず大切なのは己の身。
動かない日蔭を、笑顔の男が一瞥する。
貼り付けられた笑顔。ほんの僅かに、目が開かれた。
見ていたのは日蔭ではなく卓の上。
捨て牌、手牌。
眼球が数度動くと、すぐに元の笑顔の形に戻された。
時間にして1分弱。それで、今回の牌の流れをすべて読み取ったらしい。「ああ、そうですか」。まるで男がそう言ったかのような感覚が日蔭にも伝わった。
「――貴方、貴方がトータルトップですね」
「だったらなんだ」
男が哂う。
そうして卓に手を伸ばしかけた所で、雀荘の出入り口に立っていたサラリーマン風の男が、こちらへ向けて名を呼んだ。
聞き取れるか聞き取れないかの、呼ぶというよりは小さな咎めのようでもあった。
『江崎』
そちらは、神経質そうな男だった。細い銀縁フレームの眼鏡に、結構に広い額という名の頭部。
背格好はまるで凡庸だというのに、その目が。
これもまた、関わって得となる人物ではないことを物語っていた。
人間ではない、動物でもない、動物はあれらなりの秩序を持っている。そういったものが欠けている。
まるでそれは、獣(けだもの)の、ひとなのにひとでない、むこうぶちに、生きる
名を呼ばれた男は拍子抜けしたような表情で、腕時計で時間を確認した。
「…フフ、残念。今日は少々忙しい。今度のご縁を楽しみにしておきましょう」
そこまで思い至った日蔭の思考が、笑顔の男の言葉に遮られた。
「(…まるで、ひとおにの… ……!)」
そうそう、居て溜まるものか。あんな化物が、ゴロゴロと。
「また、いずれ」
男の関係者たちはいつの間にか雀荘から引き上げて、さいごに笑顔の男が音のひとつも立てずに扉を閉じた。
「(いずれ? いずれとはどういう事だ。会うのを確信でもしているというのか、馬鹿々々しい…)」
「まったく貴方は…、卓も気になるのでしょうが、仕事は時間通りに動くものです!」
「はは、何とかなりますよ。まだ充分間に合うでしょう?」
あの男。
先ず最初に自分を警戒した。
読みは随分鋭いらしい。勝っていたにも関わらず、口出しひとつしなかった。利巧な男だ。
江崎の口端が捻れて歪んだ。
ならば、また、いずれ。
地獄の底で。
淵にも怯まぬ愚か者なら必ず会えると、確信しているから。
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