いわゆる裏的な
Posted by 瑞肴 - 2012.05.29,Tue
喋り方難しいなあ。
ある意味オリジナルSSS。例の事務所。
「結構弱いんだ」
「弱いんじゃない、寒いんだ。おまえにはわからないだろうけど」
眼鏡の下が瞬きした。ぱちくり、ではなく、薄い金属が行儀良く重なった、かしゃかしゃ儚い音がする。
静かになってしまった事務所の中でどうにもその音はやけに耳に響いて、毛足の長い耳は決まり悪そうにそっぽを向いた。
「所長も寒いの」
「ああ寒いね。歳だからじゃないぞ」
そうか。
平坦に応えた機械の犬は、かしゃかしゃと今度は足音をさせて事務所からさっさと出て行ってしまう。グゥ。潰れた鳴き声が冷えた事務所の床を這った。
「…怒らせたかな」
「なんだ」
億劫そうに椅子から机に伸ばした長い脚を組みかえる。年長者ながら体躯は若者とそう変わりなく、事務所所長は愛用の帽子を深く被りなおした。
「怒っちゃいない」
「どうして判るんだ」
「あいつは怒り方を知らないからな」
グゥ。もう一度、潰れた声は床を這った。
時計の長針が90度ほど運動したころ、かしゃかしゃと聞き覚えのある音が近付いてきた。ドアが開く、閉まる。
「どこ行ってたんだ?」
「………」
返事がない。
やっぱり怒らせたのかと心がざわつく前に、かしゃん、音がして口が開いた。ごろごろと中から黒い塊が、部屋の片隅に置いてあったバケツに転がり落ちる。
いつの間にやら身を起こしていた最年長が、バケツの中を覗きこんだ。
「豆炭か」
「うん。一寸失敬してきた」
「おい、そこの襤褸を取ってくれ。こいつ口の中が煤塗れになっちまってる」
「あ、ああ、ほら」
出涸らしの茶で湿らされた古い布切れを口の中に突っ込まれても咽ることもなく。素直に磨かれる機械とメンテナンス業者になった事務所所長。
暫くもごもごしていたけれど、もういいだろうと舌を一拭きされてから解放される。
「…なにやってんだ、来いよ。火があれば暖かいだろう」
腕を引っ張られ、長い毛足がモップのように床を擦った。
「いいよ、おまえが一番傍に居ろよ」
「俺は寒くない。だって俺は」
「いいんだよ! 居ろって!」
「…変な犬(やつ)だな」
「ひとのこと言えないだろ!」
ちゃっかりと絶妙なポジションに寝そべりながら、若人の会話を視界の端で聞き流す。
「これが犬の事務所さ」
誰ともなし呟いて、欠伸一つが噛み殺された。
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