ぽっちりこーぽっちりこー つづき。俳優パロディ。
まだ続くー。
よー。
意気消沈しながらだが、アカギは結局鷲巣の邸へ向かうことにした。
荷物に直筆の手紙をつけてはいたが、まだ鷲巣からの返答らしきものはない。時間差で、まだあちらへ届いていないのなら、事情を…どうにか説明して返して貰って…。
「~~~」
それは無い。
一度贈ったものだ、返して欲しいというのもおかしな話。
頭を抱えたかったが、バイクに跨った状態だったので、止めた。ああもう、どうしたものか。あんな唐突な、礼儀も弁えないことをして、きっと鷲巣は呆れていることだろう。
あの人の前では、大人で居たい。できるだけあの人に近い所に居たいのに、失敗してばかり。ヘルメットの下で半分泣きそうになりながら、アカギは目的の邸へと到達した。
「こんにちは」
玄関ベルを鳴らせば防犯カメラがアカギの姿を確認する。主の許可により、例え主が不在であってもアカギはこの邸に入ることができた。今日はどうやら、在宅しているらしい。さて、開口一番何を言ったものか。
夏の夕日を背負うアカギの、頭の中には暗雲が立ち込めている。
正門を潜って暫く移動し、たどり着いた邸の玄関。重くなる気分を奮い立たせて何度かノック。かちゃりと小さな音がして、大きな扉は開かれた。
「アカギ君? いらっしゃい」
深い、響く甘い声は鷲巣のもの。
「鷲巣さんっ、実は…」
力んだアカギを出迎えたのは、己の選んだ浴衣と帯を着けてニコリと微笑む鷲巣であった。
「…っ?! え、…それ、……っ」
墨のような色のある黒、艶やかな赤で刺繍が施されているそれをアカギにお披露目するように、くるりと回る。
「さっき届いたんでね、着てみた所だったんだよ」
くふくふと、鷲巣が笑う。流れる銀の髪が墨色の生地の上を流れ、小首を傾げながら見上げてくる目が浴衣を彩る赤すべてを纏め上げた最後のポイントになっていて、アカギは思わず安堵と感嘆の息を漏らした。やっぱり、似合っている。
少し我の強い色合いと柄だと、店の従業員には言われたけれど、鷲巣なら、我の強さをなんなく従わせ己の物と出来る。そうと信じて購入し、その想像通りの光景に、我知らず笑みが浮かんだ。
しかし、くるんて、くるんて回るとか、袖を軽く持ち上げるとか、犯罪級に可愛い。なんなんだ、くるんって。
「…アカギ君?」
完全に自分の世界に入っていたアカギは、呼ばれてやっと我を取り戻した。
「あ?! はい!!」
「…君が思っていたより、似合わなかったかい…?」
何も言わないアカギに勘違いをしたのか、心持ちしょんぼりとした鷲巣に、慌てて全身全霊で否定する。
「違います! あんまり似合ってて綺麗で、見惚れてたんですっ…!」
「…本当に? ……私が浮かれ過ぎていて、呆れていなかった?」
呆れられるとすれば、むしろアカギのお花畑化した脳内であったろう。が、ツッコめるものは残念ながら此処には居ない。
「本当です。くるって回る鷲巣さんとか、可愛すぎて…嬉しかったです…。俺に、全部見せてくれようとしたんですよね。…鷲巣さん、可愛い…」
ぎゅぅっ。
出来れば、部屋の中でやって欲しいなあと後ろに控えていた白服は思ったりもしたのだけれど、まあ主が幸せなのは良いことなので、あえてその思考は捨て去ることにした。
すべてを忘却して鷲巣を抱きしめていたアカギだが、数十秒後に本来の目的を思い出した。
「って、違う。…あの…」
「 あ 」
「 ? 」
ひんやりとした白い手が、アカギの頬に添えられた。
「お礼を言うのを忘れていたね。…アカギ君、ありがとう」
微笑まれ、もう、どうでもいいしなんでもいいやとグネグネに骨抜きになったアカギであった。
「そんなこと。……あ…良かったら、…お祭り、行きませんか? 折角浴衣だから」
知ってる神社で、今日からやってるんです、と言われ、少し考えてから鷲巣は小さく頷いた。
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