女帝モノな上に、きんしんモノでもあります、兄妹なかんじ。殺伐系。
アカギ3歳の頃なのでアカギの出番は無し。
最後に右腕くんがちらっと。
以上がOKOKどんとこい、という肝っ玉の座った方以外は止めて置いたほうが得策です。
面会だという。
面会などと、許されるものなのか。疲れ切った頭と体は双方重く、看守に両脇を支えられるようにして移動させれれる男。
面会室は通り過ぎ、応接間のような、部屋へと通された。
そこそこの造りの、ソファと、低いテーブル。
「手錠を」
既に、部屋には人が居た。
「外して頂けるかな? 肉親のそのような様を見るなどと、心が痛む」
殊勝なようでいて鷹揚に、ソファに腰掛け足を組み、そう願ったのは妹だった。
「…ッ依和緒…!! 無事だったのか…っ」
見たことの無い洋装。
鎖骨から、胸の上半分が露になっている、が、それ以外は手首と項の一部しか肌の露出は無し。スリットの入った長いスカートから覗く、黒いストッキングに包まれた足が艶かしく組まれていた。
看守が、手錠を外すのにも驚きながら、視線はそこから外せない。
「ふ、ふ…」
看守は部屋から去り、男もソファへと腰を下ろす。
妹は、ミッドウェー海戦を時期に、男の前から姿を消していた。さんざ探し回ったのだが、時期も時期、警察官僚であった男は仕事が忙しく、結局いままで消息を掴めないままでいた。今は、特に、牢の中なので、もう探しようもなかったのだが。
敗戦がすべての境だった。
鷲巣の長子として築き上げてきたものは、戦犯の二文字に崩された。
「…今まで、何処に」
数年ぶりに会ったというのに、妹に変わった所はなさそうだ。むしろ、あまりの変わらなさに戦慄する。
齢50を越すというのに、肌の艶は衰えることを知らず、否、昔よりも遥かに淫靡な色を纏い、媚びることを知らぬような強気な猫の目は真っ直ぐにすべてを見据えている。
生まれた時からの銀にも似た白髪は、また、少し伸びたようだった。背の半ばあたりまでを覆っている。
「会社を興しました。兄上様のお傍で築いた人脈のお陰です」
くつりと笑う。
まるで魔女だと思うのに、その毒を含んだ赤い唇に未だ、貪りつきたくて仕方が無いのだ、などと。
「……やはり、やはりお前は俺を踏み台にしたかったのだな」
可笑しげに、目を細める。怒りにか絶望にか震える拳を視界に入れたまま。
「くくく…、たかだか一機関のトップになった程度で満足された兄上様には、解らないでしょう…」
骨張った指が掲げられ、握り締められる。
「私(わたくし)はこれから、この国の頂点に立つつもりです」
「……馬鹿な……」
「いいえ、いいえ、私ならば出来る。私こそがこの国の支配者に相応しい。いまこそが好機っ…!」
狂人の戯言だと、そう思わせないほどの熱が其処にあった。
自分はいったいこの女の何を見てきたのだろうと、男はただただ女を見つめた。どれ程、男を落す手管に長けていようと、所詮は自分の庇護が無ければ政の場にも出れない”女”だと、心の何処かで常にそう思っていた。それが、なんだ。
熱の篭った、否、まるで太陽、黒い太陽そのもののような強烈なエネルギーを有した女が、蛇のように笑っている。
一体己は何を匿い育ててしまった。
これは、この女は、まるで化物の。
「ふふ…、くふふっ…。もう貴方は要りません。然様なら、兄上様。今日はそのご挨拶に伺いました」
「…っつ!」
体が、先に動いた。
異変を察し、腰を上げようとした女の両の手首を捉えて握り締める。
「……兄上様?」
「…誰が…っ、誰が…っ、お前を此処まで……っっ!!」
眉根を寄せ、くつりと笑う。駄々を捏ねる子供を見下ろすように。
男は、自分の頭に血が昇るのを自覚しながら女を床へと押し倒した。ごつりと鈍い音がして女は眉を顰める。
至近距離、近付いてみれば女は強めに香水を振っていた。雄の匂いを嫌う女は、カラダを道具に使った後はいつもそのようにすると、男は知っている。
知っているから、逆上した。
「こんな、体で…ッツ 汚らわしい…、自分の歳を分っているのか…!?」
「くくく…、悋気ですか? 貴方と離れて数年、幾人の腕に抱かれたことか…想像しなかったわけでもないでしょう」
膝が、ヒタリと股間に当てられる。
一瞬蹴り上げられる覚悟をした男だが、膝頭は、滾りを秘めたそこを緩やかに撫でただけだった。
「想像しながら一体何をしたのやら。汚らわしいのは何方です…くっく、救い難い、実に愚かしい…」
手が、白い頬を張った。
もう、何がなにやら分らない。詰襟の留め金を引き千切り、露になる肌へと貪りつく。女は頬を赤くしながら、抵抗らしい抵抗はしなかった。しなりと、まるで糸の切れた人形のように肢体を投げ出し、哀れみと侮蔑をのせた眼差しだけを男へ送る。
気付いていた、最初からこうだった。女は常にこの目で男を見ていた。気付いていたのに、見えないフリをした。逃げを打った己を、女はまた侮蔑した。向かい合えば、違ったというのか。血の繋がった、この妖女に、正面きって、愛していると叫べばよかったのか。女はそれでもきっと嘲笑ったろう。
それでも
そうするべきだった。
「…依和緒…ッ」
20年だ。それほどの時を、仮にも共に過ごしていたというのに、己はずっと逃げ続け、妹はそれを笑って肯定した。
一体、妹がいつから狂っていたのかは分らない。最初のあの夜からなのか、もっとずっと前なのか。それとも今もって”正常”なのか。
「………なにを泣いているのです、…私を抱けたのがそんなに嬉しい?」
初めて、不快そうに吐き捨てた。
「…依和緒、……依和緒、……すまない、己は……ッ」
「…感傷ですか? ヒロイズムなど似合いませんよ、兄上様」
何も、言わず、ただ泣き続ける男を見上げる女だったが、暫く待ってものその様に舌打ちを鳴らす。
「もう、良い。茶番は終わりだ」
は。
短い声が返り、かと思えば、男の視界は反転した。
額に、穴。
隣室から現れた、スーツ姿の青年が拳銃を構えながら女に近付く。銃口からは、白い煙が漂っている。青年が自分の上着を女の肩に掛けたのと、ほぼ同時に、男の体は仰向けに床に転がった。
「社長、…服はどうします?」
「…さっさと着せろ。目に余る」
破り捨てられた黒いストッキングをゴミ箱へ叩き込みながら、青年が、死体にズボンを穿かせるのを汚らしいものを見る目で見下ろす。
「フン、首の一つでも絞めてくれれば良いものを。ま、手首に痕は残ったか…」
白い細い手首には、強い力で握られた赤い痕がついていた。
「私はショック状態で口が利けん。貴様がよくよく説明せい。『もう牢を出られないと絶望しトチ狂った男が、唯一の身内を道連れに自殺を図ろうとした』とな」
「はい。…社長」
「…?」
額を舐められる。
「血がついてます」
「そうか」
嗚呼、下らない詰まらない。
すまないなどと、今更吐き出た言葉がそれだとは。最後のさいごまで貴方はただの偽善者が精々だった。謝罪など何の役に立つわけでもなし、ただ己が謝罪を口にして救われたいだけなのだ。
それに比べてこの部下の役に立つことといったら。
普段はどうしようもない間抜けだが、仕事はきっちりとこなしてみせる。表情ひとつ変えずに飛び散った血と脳漿を的確に拭う。汚らしい血よりも、この部下の唾液が肌を撫でる方が、よほど良い。
「人が来たな。まったく、遅い、怠慢な」
「あはは、社長、座り込んでおいて下さいね」
フンと鼻息をひとつ零し、女は床に直接座り込んだ。
強張った表情を作りながら。
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